※兄弟パラレルシリーズ、テイト視点で、後編です。前編は
コチラ
そわそわしながら10分待った。フラウはまだ来ない。家からなら歩いて10分ぐらいだけどこの人混みだし、フラウは出先かもしれない。だって家には居なかったし……そうだな、あと20分……それで来なかったら帰ろう。そう決心したところでクラクションが鳴った。道路端にフラウの車が止まっている。
「フラウ?」
「待たせたな。さっさと乗れ!」
即されて慌てて車に乗り込む。
「バイトじゃなかったんだ?」
「ああ、ヒーター取り付けてた」
「え? ヒーター?」
「暖かいだろ?」
そういえばオレの足元だけ暖かい。フラウの車は言っちゃあなんだがオンボロで、隙間風厳しい機密性の無さが自慢だ。夏は良かったが冬はキツイ。いつだったかエアコン付けろ!と言ったのを思い出した。
「車屋さんに行ってたの?」
「いや。家のガレージで梅さんと松さんに手伝ってもらってやっと付けた」
「え?家に居たの?」
「ああ。ずっとガレージん中だったが」
ガレージがあるのは裏玄関の方だからまったく気が付かなかった。家の者が出払ってると思ったら、皆ガレージに居たのか……
「そんなことよりテイト。綺麗だぞ」
そう言ってフラウは目線の先までずっと延びている電飾並木に視線を送った。
「うん」
フラウを待つ間、一人で通りを眺めながら車でこの道を走りたいってずっと考えてた。どんなにかロマンチックだろうって……。でも、実際は話す事、問いただす事が多過ぎてロマンチックとは程遠い。
「そういや、オマエ、なんであんなとこに居たんだ?」
「なんでって……それは……フラウが」
かまってくれなかったから、とは今更言いづらいじゃないか……
「まさかナンパしてたのか?」
「ちがうよ!」
フラウの冗談に向きになって否定しなければ良かった。速攻で否定したオレを見てニヤニヤ笑っている。
「ったく、笑うなよ! もとはと言えばフラウがイブもクリスマスも忙しいのがいけないんだからな!」
この時間帯、都心の道は渋滞気味で車はさっきから前に進んでいない。フロントガラスの向こうは車のブレーキランプの赤と並木に飾られたイルミネーションが続いている。やっとフラウと二人きりになれたというのに、突然廻ってきた久しぶりのデートでオレは緊張してぎこちない感じだ。そんなオレの内心を知ってか知らずかフラウの大きな掌がオレの頭上に乗っかった。
「道混んでるな」
そう言いながらもフラウはどこか楽しげだ。そういえばこれから何処に行くのだろう?
「イブにバイト入るのと条件で店長から貰ったんだぜ。ソレ!」
そう言ってフラウはヒーターを指差した。
「さっきヒーター取り付けてたって、今日はもともと空いてたのか、フラウ?」
「ああ」
「だったら最初からそう言えば良かっただろ?」
「言おうとしたらオマエ、オレの話訊かずに出て行ったじゃねーか」
「だってそれは遊園地に連れて行けって言ったらフラウが言葉濁したからだろ!」
「あれは……。あのなテイト、これから遊園地に行くんだよ」
「何で?」
「だからオマエを驚かそうと思ってだな最初から決めてたんだ。遊園地」
フラウはそう言ってニヤリと笑った。
「……」
要するにオレに悟られたくなくてワザと行かない風を装ったのか。そうとは知らずにオレはやきもきして拗ねて一人でクリスマスイルミネーション見に外に出たわけか。
「なぁ。オレがホントにナンパしてたらどうすんの?」
そうだ、その気になればオレにだってナンパの一つや二つ。
「オマエがか? ありえねぇな」
うっ。見くびられてる。
「けど、ナンパされかねねーから、あまり街中フラフラするな」
フラウは真面目な顔でオレを見ると視線を前に戻した。
心配なのはそっちかよ。
頬が赤くなるのを意識したオレはフラウとは逆の窓を見つめた。
ようやく車が進みだし景色が変わってゆく。イルミネーションの並木通りを抜けても道はどこもクリスマスの装いで華やかだ。
着いたらまずは遊園地かと思いきや、フラウは真っ直ぐ隣接して建つホテルに向かった。
「なぁ、フラウ。遊園地は?」
「あとでな、とりあえず今夜はここに泊まるから。後部座席にオマエの着替えの入ったバッグがあるから出してくれ」
「うん」
言われるままにバッグを掴む。フラウのヤツ用意がいいな。
「オタケさんに用意して貰ったんだ。オフクロとカペラにも今夜は泊まりって言ってあるから心配ない」
「え? マジで?」
カペラがオレとフラウの二人だけで遊園地に行くのを許す筈がない。
「ドライブとだけ言ってきた」
「……」
まあ、そうだろうね。オレはさっさと前を歩くフラウの後を慌てて付いていった。
ホテルの中は平日にもかかわらず結構な人出で賑わっていた。それにしてもこのホテル、昨日のパーティ会場だ。よくよく縁が有るなと思いながらチェックインするフラウの横に立った。
「二名様でご予約の蔵院様ですね。承っておりますが……当方のミスでダブルブッキングが生じまして……」
おいおいおい。
流石にクリスマスだし、そんな問題もあるかもしれないが、その辺のビジネスホテルならいざ知らずこんな大層なホテルでそのミスは無いだろう?と如才ない対応をしているフロントマンを訝しげに見つめるとどこか見覚えのある顔。あれ、この人……と、オレと目が合うとフロントマンは微笑んだ。
「先日はパーティを盛り上げて頂きましてありがとうございました。テイト様」
「なんだ? テイトの知り合いか?」
「あっ!あ〜〜〜!!!昨日のクリスマスパーティのビンゴの司会やってた人?!」
「はい。カペラ様とテイト様にパーティを盛り上げて頂いたお礼を考えていたのですが……。どうでしょう、ハーバールームの最上階のお部屋をご用意できますが変更してもよろしいですか? あ、もちろん当方のミスですので料金はこのままで」
いやいや、いくら何でもそれは、フラウだって流石に遠慮するだろう……
「お、アップグレードってヤツ? いいねぇ。じゃ、変更してもらえます?」
って、オイ!
フロントマンは「かしこまりました」と微笑を浮かべると同時にチェックインは完了した。
「すっげー!!!園内が一望できるぞ」
部屋の奥に進んだフラウが珍しく感嘆の声を上げた。テイトも近寄って窓の外を眺めるとクリスマスイルミネーションに彩られたお伽の国が広がっていた。室内の照明を落とすと一層窓の外が輝いて見える。
「どうする、テイト。外に行ってみるか?」
窓から見える山の頂上から光を放ちながらジェットコースタが滑り落ちて行く。それと一緒に悲鳴にも似た歓声が響いた。どのアトラクションも稼動中でまだ充分遊べそうだ。
窓に張り付いたまま動かないでいると、フラウがすっぽりと覆うように背後から抱きしめてきた。
「ジェットコースターも池に浮かんでる船もまだ動いてるぜ」
外に出るか? そう促しているように聞こえるが言葉とは裏腹にフラウは米神に口付けた。
窓の外は楽しげな歓声と軽快な音楽。
「あと一時間もしたらショーも始まる」
回した腕も解くつもりは無いらしく一層強くなる。
フラウはオレの顎を捕らえると視線を合わせた。
乗りたいアトラクションが頭を過ぎる。この時間ならそう待たずに乗れそうだ。
フラウと二人で歩く遊園地をあれほど夢見てたのに……意識は別のところにある。
「オマエが楽しみにしてた遊園地だ」
そう言ってフラウが意地悪く笑う。心の中を見透かされたみたいでドキリとした。
「行かないのか?」
オレはフラウの首に腕を回すと微笑を浮かべる唇に吸い付いた。キスはすぐに深くなってたちまち呼吸が乱れる。フラウとのキスも久しぶりだ。
外は楽しげな音楽と笑い声。屋台で売られているチュロスとポップコーンのの甘い香り。光を放ちながら動くアトラクション。
夜の遊園地は魅力的だけど
それより今はフラウが欲しい……
窓の外がパッと光り「わー!!!」と歓声が上がった。続いて「ドーン!」という花火の音が響いた。どうやら夜のショーが始まったらしい。次々と花火が上がり歓声が沸く。オレとフラウは暖かい部屋の中でソファを窓に向けて打ち上げ花火を眺めた。
「特等席じゃないか」
そう言って満足げに微笑むフラウの腕の中にオレはすっぽり納まって窓の外のショーを眺めた。
水上に聳え立つオブジェの様なモノが色とりどりのライトに照らされてくるくると装いを変化させる。
オレはショーに魅入って「スゲー」を連呼した。
「すごいなフラウ」
そう言って顔を上げたらフラウと目が合った。フラウはショーに魅入るオレを鑑賞してた。
「まったく、フラウもショー見ろよ!」
「見てるよ」
容赦ないフラウの視線を感じて居心地が悪い。その上「あんまりかまってやれなくって悪かったな」なんて、唐突にフラウが謝るからオレはさらに居心地が悪くなった。
「べつに、もういいよ。……此処に連れてきてくれたし」
正直、一人で街中を歩いているときは今日という日を呪ったけど、イルミネーションやショーウィンドウのクリスマスデコレーション見てたらやっぱりクリスマスを嫌いにはなれなかった。
それにちゃんとフラウはオレのところに来てくれたし。
「そういえばさ、フラウ就職ってどこに決まったの?」
「……内緒」
「なんで!?」
「話しちゃいけない約束なんだ」
そう言われるとますます気になるじゃないか!何とか当てようと思いつくままに職業を連呼して反応を見たがどれも違うらしい。
「なぁ、教えろよフラウ!」
「春になったら解るよ」
「なんだよそれ?」
「そんなことより……」
続きをしよう
そう耳元で囁かれてオレは顔どころか耳まで赤くなった。
end
※一応、ほのぼの〜な感じで終わりですがオマケもご用意しました〜!→
オマケ ※R18です。18歳未満の方はご遠慮くださいませ。