※兄弟パラレルシリーズ……テイト視点で
大きなデコレーションケーキと綺麗に飾りつけされたもみの木、華やかなショーウィンドウや眩しいイルミネーション、街に流れる音楽、それらが否が応でも気分を盛り上げる。そう、クリスマスは一年で一番好きなイベントだっ……た。
理想のクリスマスの過ごし方
「なんだよ!バイトバイトって!こっちは冬休みに入って速攻っで帰ってきたってのに!」
「だからわるかったって!クリスマスイブってのは人手も足りねーし稼ぎ時なんだよ」
「そんなに金貯めて何に使うんだよ!就職内定したんだろ?来年から稼げばいいじゃん!」
深夜に帰宅したフラウを部屋で待ち構え、オレはフラウに詰め寄った。
フラウは稼ぎがいいからと、この秋からバーテンダーのバイトを始めた。本当はホストクラブなんじゃないかと訝しんだがバーテンであることは間違いないらしい(どうやらカストルさんとラブラドールさんも一緒のようだ)。そのバイト先でクリスマスパーティーをやるから休めないって……フラウと二人で過ごすのを楽しみにしていたのに……あんまりだ。
「じゃあ、クリスマスは? クリスマスの日に遊園地連れてってよ! まさかバイトなんて言わないよね?」
「……ゆ、遊園地か? クリスマスに遊園地なんて人が多くてつまんないぞ。それにほら、クリスマスに遊園地に行ったカップルは別れるって都市伝説があるだろ?」
「フ〜ラ〜ウ〜」
「すまんテイト!この埋め合わせは……」
「もういいよ!」
オレを抱き寄せようと伸ばしたフラウの手を払いのけるとフラウの部屋を出た。
一年の殆んどを寮で過ごし、休みで家に帰っても家族がいるから到底二人きりにはなれない。クリスマスならと期待して浮かれていたオレがバカだった。
「ドライブ行きたかったな……」
自分のベッドに潜り込んだオレは布団を被ると呟いた。
寮にいる間、フラウと過ごすクリスマスイブを彼是妄想した。家族が寝静まった後フラウに連れ出されてドライブに行くとか、遊園地デートとか、それはもう恥ずかしいぐらいベタなカップルを思い描いて……
それもこれも全部無くなって今やオレのスケジュールは真っ白だ。
どこにも行けなくたって二人で過ごせれば……それだけで良かったのだ。
寝返りを打った瞬間、つぅっと涙が目尻を伝った。
たぶんこれは悔し涙だ。
「年に一度のクリスマスなのに……フラウのバカ」
そう呟いてオレは枕に顔を埋めた。
「テイト兄ちゃん、またフラウ兄ちゃんと喧嘩したの?」
浮かない顔のオレを心配してか、カペラがオレに話しかけた。
クリスマスイブ、予定の全く無いオレは父親の会社が主催するイベントにカペラと一緒に参加した。某ホテルのパーティルームで行われているそれは、大きなツリーに豪華な料理、プチケーキも食べ放題のようだが、メインは10種類の木の実が飾られたクリスマスケーキだそうだ。
目移りしそうなご馳走とおそらく有名人であろうゲスト。誰もが微笑み、弾んだ会話が行き交う会場をぐるっと見渡す。この華やかな空間に当然の事ながらフラウの姿は無い。
どんなにご馳走を積まれてもフラウなら来ないだろうな。辟易した顔を晒すフラウを想像して苦笑いする。そして溜息。
こんな時にまでフラウのことを考えるなんて重症だな。
あんなヤツのことなんかとっとと忘れて、こうなりゃパーティを楽しむしかない!
「カペラ!会場のご馳走を食い尽くすぞ!」
オレがそう言って口の端でニヤリと笑うとカペラの心配顔が笑顔に変わった。
クリスマス当日、目が覚めて時計を見ると昼を当に回っていた。
本日も予定無し。だからといってダラダラと過ごすのも空しい。オレは部屋着に着替えると廊下に出た。家の中がシンと静まり返って誰も居ないみたいだ。
カペラは友達の家でクリスマス会だと言っていたからきっともう居ないのだろう。
ダイニングに用意された独り分の朝食を食べようと椅子に腰を降ろす。手にした牛乳の入ったカップはまだ温かい。家政婦のオタケさんはどこへ行ったのだろう?
昨日食べ過ぎたおかげで食欲は無かったが胃の中に牛乳が到達すると思い出したようにお腹が鳴った。オレは皿に盛られたクロワッサンに手を伸ばすと千切って口に放り込んだ。
昨日のクリスマスパーティはまぁまぁ楽しめた。ご馳走をたらふく食ったし、有名キャラクターとの記念撮影もあった。パーティのクライマックスはビンゴで、カペラは最新のゲーム機をゲットしたし(相変わらず籤運がいい)、オレはというと高級美顔器を当ててしまい周囲のオネェサマ方のやる気を一気に殺いでしまった。辞退しても良かったがこのまま母へのプレゼントにしてしまおうと、ありがたく頂く事にした。帰りにの車では胃に押し込んだご馳走が心地良い(とは言えない)眠りを誘い、オレもカペラも「もう食えない」と念仏のように唱えながら、家に着くなりそのまま自分らのベッドへ直行した。今思えばとんでもないイブだがそれでもオレは充分クリスマスを堪能している!
フラウが相手をしてくれなくてもクリスマスはクリスマスだ。楽しいに決まってる!
「…………。はぁ」
今日は何をしよう?
そういえば朝方フラウが部屋に居たような気がする。
額に何かが触れて夢見心地に「フラウお帰り」と寝ぼけた調子で呟いたら「ただいま」の一言と唇が触れた。
「まだ寝てろ」
その言葉に頷くとオレは再び眠りに落ちていった。
あれは夢か現実か?
フラウはどうしているのだろう? バーテンの仕事は夜のはず。だったら昼間は居るよな? まだ寝てるのかな?
オレは食べた食器を片付けるとフラウの部屋へ行った。
「フラウ?」
フラウの返事は無い。部屋の中へ入るとやはりフラウの姿は無かった。気配どころか部屋に戻った形跡もない。
「どこに行ったんだ?」
ここまで放って置かれるオレって可哀想。ってか放置しすぎだろ?!?!
もしかして、オレ、捨てられた?
バイトとか言ってるけどデートとか?
フラウに限ってそれは無い!と確信はあるが……この現状。
……現にオレは一人ぼっちだ。
クリスマスだというのに!
夕方までフラウの部屋で粘ったが結局フラウは帰ってこなかった。オレは居ても立ってもいられずダウンジャケットを引っつかむと外に出た。とてもじゃないが家の中に一人でなんて居られない!どうせだから都内のイルミネーションスポットを制覇してやろうと、気を紛らわす為に出てきたのだが……
表参道は想像以上の美しさで思わず息を呑んだ。人も想像以上に多かったが……
「綺麗……」
道に沿って立つ光の木が延々と続いていて眩しい。木を見上げると光が零れて手の中に落ちて来そうだ。
「そうだ携帯……って……オレのバカ!」
フラウにも見せようと無意識にポケットの携帯を探している自分に苦笑した。そもそも誰の所為で自分はここに居るんだ!?と心の中で悪態を付く。人の気も知らないでバイトに明け暮れているヤツのことなんか考えたくも無い!
……それでもフラウと見たかった……
結局、携帯で並木を写すと保存した。
ふと、手の中の携帯がブルブルと鳴り出した。
「えっ、え? 何? 誰?」
着信を見るとフラウからだった。慌てて通話ボタンを押す。
「フラウ?」
『ああ、オマエ今どこに居る?』
フラウの声を聞いただけで胸の奥がきゅんとする。
「表産道」
ぽつりと答えた。オレが何処に居るかなんて訊いたところでフラウには関係ないだろ?
『ヒルズの辺りか?』
「うん。道挟んで向かい側」
『ヴィトン?』
「より手前の歩道橋」
『わかった迎えに行く。そこ動くな』
「え? ちょっと……フラウ?」
迎え行くって、バイトは?と通信の切れた携帯を見つめて呆然とする。
フラウに会えるのかな?
NEXT
※後編に続きます。