蜜月0 【後編】
※蜜月0の後編です。前編を先にお読みください。



「テイト兄ちゃん」
「ん?」
 ザイフォンを出せるようになったカペラは嬉しくて仕方無いのだろう、とあるごとに痛いところは無いか訊いてくる。
「やっぱり、どっか痛いの?」
 痛いところはこれと言って無い…強いて言うなら心?かな…
 あの日からフラウとそういう雰囲気になることを避けている。たぶん互いに。
 フラウは酒瓶を抱いて隣の居間で寝るようになった。
 オレはと言えば淋しさを紛らわすようにカペラに多大な愛情を注いでいる。
「カペラ、ミカゲ、おいで…もう、寝よう」
「あい!」
「ぷるぴゃ!」
 ミカゲを追い回して遊んでいたカペラが満面の笑みを浮かべて布団の中に潜ってきた。頭にミカゲを乗せて。
 少し前の自分なら愛くるしいカペラの笑顔で悩みや心配事はすぐに吹き消えただろう。
 今は心の中のモヤモヤが晴れることは無い。


 数分も立たないうちにカペラは眠りに落ち、静かな寝息を立て始めた。
 子供は体温が高いのだろうか?カペラの居るところだけがぽかぽかする。
 ふと、フラウのことを思う。
 オレが告白した後、フラウはオレを子供扱いしてオレとの間に巨大な壁を築いた。
 それをどうにか壊したのにフラウは更なる高い壁を築いてしまった。
 そんなもん壊そうと思えばできるのに今のオレはその一歩が踏み出せない。
 また、醜態を晒してしまいそうで…自分を見失いそうになる瞬間が堪らなく怖いのだと思う。
 黙って抱きしめていたフラウの腕の感触を思い出す。
 今のオレがカペラの体温を感じるようにフラウもオレの体温を感じていたのだろうか?
 不意に淋しさが込み上げて自然と涙が溢れだした。

 やっぱりオレ、フラウが欲しい…



 その夜は久しぶりにミカゲの夢を見た。
 宿舎で同室だった頃の夢を。
 フラウには初めてだって言ったけど本当はミカゲにいろいろと教えられた。
 ミカゲとの間に恋愛感情なんて無くて互いの性的欲求を解消しあっていたにすぎない。
 そう思っていたのだが、今はミカゲはそうじゃなかったとはっきり解る。
『テイト、好きだよ』
 何度と無く囁かれたあの言葉は友達としての『好き』じゃなかった。
 ごめんなミカゲ…
 今頃こんなことに気付くのは今のオレがフラウに対して同じ想いを持っているから…
「フラウ…好き…」
「俺も好きだぜ、クソガキ」
「え?フラウ、何時の間に…」
「シー。カペラが起きる」
 そう言うとフラウはオレを抱き上げ隣の居間へと移動した。
「フラウ…」
「今日こそオマエが泣こうが喚こうが絶対に止めないからな!覚悟しろ!」
「…ウッ、今頃なんだよ!フラウなんか独り酒瓶抱いて寝てろ!」
「オマエ、酷い」
「フラウなんかっ…」
 フラウの首に思いっきり抱きついた。泣き顔を見られたく無かったから…なのに、腕を解かれ向き合わされた。
「酷い顔だな…」
「うるせー!誰のせいだよ!」
「はいはい、俺のせいね…ん〜可愛いね〜オマエはホントに」
 フラウはオレの涙を嘗め取ると唇を塞がれた。
「消毒液の味がする…」
「ははは。悪い、ちょっとガソリン入れた」
「ガソリンって、…酒だろ?」
「そ。手持ちの酒。全部飲んじまった」
「…ったく、酔っ払ってるのかよ!…んん…」
 口付けは次第に激しさを増し、オレの息が上がる。あろう事か自身は既に半立ちだ。
「んん…フラウ」
 ゆっくりとフラウの唇が離れる。
「オマエが根を挙げるのを待ってた」
「…?」
「俺はずるい大人だからな…また、オマエから俺の中へ飛び込んで来るのを待ってたんだ」
「なんだよ、それ…」
「で、結局、俺の方が我慢できなくなった」
 フラウの大きな掌が中心をやんわりと包み込み、もう一方の手の指は後部への刺激を開始する。
 与えられる快感を追っている間にフラウの冷たい指の先がゆっくりと飲み込まれていく。
「んん…フラウ、もう…」
 快感に弱いオレはすぐに頂点に達してしまう。なのに、フラウは愛撫の手を止めた。
「なんで?」
 逝かせてもらえないもどかしさから自然と腰が揺れる。もう、恥ずかしくて死にそうだがどうにもならない。
 前への刺激が無くなった為、後ろに入れられたフラウの指に神経が集中する。
「アッ…」
 弱い場所を探り当てられ声が上がる。フラウは刺激を与えながら指を増やしていった。
「フラウ…もう…」
 自分が自分で無くなるような恐怖が再び襲ってきた。
「フラウ…怖い…」
「テイト…大丈夫だ…」
 フラウがオレの眼を覗き込んだ。いつもは淋しげな光を放つブルーが今は優しい色をしている。もう、この瞳を淋しい色にしたくない。
 オレの中の恐怖は消え、フラウへの想いばかりが募る。
「フラウ…キス、して…んっ」
 フラウの眼が獣の光を発した次の瞬間、フラウに貫かれた。
 同時に唇を塞がれ、舌が容赦なく這い回る。
 フラウのキスは後ろの刺激とシンクロしてオレを翻弄する。
 そして、逝く瞬間、オレの意識は飛んだ。



「テイト兄ちゃん」
「ん?」
 何時の間にベッドに戻ったのか?普段通りの朝を迎えた。
 フラウとの情事は夢だったのだろうか?もし、そうならオレはかなりの欲求不満だ。
「痛いとこある?」
 よっぽどザイフォンを使いたいのかカペラがオレの顔を期待のこもった目で見つめる。
 痛いところはこれと言って無い…強いて言うなら……

 どうやらフラウとの関係は夢では無かったらしい。
 昨夜は何度と無くフラウに逝かされ自分もフラウを求めたのだ。お陰で腰に鈍い疲れが残っている。
「やっぱり痛いところあるの?テイト兄ちゃん!」
「いや、大丈夫だよカペラ…ちょっと腰が凝っただけだから…」
「じゃ、治してあげる!」
「うん。ありがとうカペラ!」
 せっかくだから治してもらおうとベッドにうつ伏せになった。
 バタン!
「よう!クソガキども!朝飯だぞ!」
 居間の扉が開くのと同時に、今一番、顔を合わせたくないヤツが入って来た。
「お!カペラ、お医者さんごっこか?俺もまぜろ!」
 強引にオレの隣に横になりそっと小声で囁く。
「やっぱり腰に来たか?テイト」
「……うるさい…」
 オレも仕方なく小声で返す。
「何だ、朝から無愛想だな…夕べはあんなに」
「!!!カペラ、フラウ兄ちゃんは頭が痛いって!強めでやってあげて!」
「あい〜!」
「わ〜!カペラ、たんま!俺全然大丈夫だから!」
 カペラは張り切って一際大きなザイフォンをフラウの顔目掛けて放った。


 フラウの態度はいつもと変わらない。
 ただ、向けられる視線が少し(相当)いやらしいと感じるのはオレの気のせいだろうか?






Fin