※兄弟パラレルシリーズ、フラウ視点。テイトが中学を卒業した春、「夏の憂鬱」より少し前のお話です。

桜が散る頃

 突然テイトが寮に入ると言い出した。テイトの通う07学園は幼稚園から大学まである一貫教育の学園だ。広大な敷地の中にそれらを含め、カフェ、コンビニも揃ってる。
 高校生活を充実させる為に寮に入る。と、テイトは言ってるが、ここから通える距離だし、わざわざ学校の延長みたいな寮に誰が好き好んで入るのか? と、フラウにはまったく理解できなかった。
 テイトの宣言から一夜明けて、目を真っ赤に腫らした弟のカペラが痛々しい。なんとかテイトを思い止まらせる事はできないものかと、フラウはテイトの部屋をノックした。
「テイト、ちょっといいか?」
「何?」
 部屋の戸を少しだけ開けたテイトが怪訝な顔でフラウを見上げた。
「入っていいか?」
 フラウは返事を待たずに強引に中に押し入ると、テイトのベッドにどっかりと腰を降ろした。
 この尋問から逃げられないようにテイトを手招きして隣に座らせ、肩を抱く。フラウが触れた瞬間、テイトの肩がビクッと震え、体を強張らせた。
 どうやらオレは相当、嫌われているらしい。
 フラウは心の中で苦笑いを浮かべながら、今年の秋頃から避けるようになったテイトを思い返した。フラウに身に覚えがまったく無いとは言い切れないが、ここまで避けられる理由は何なのか、皆目検討が付かない。いや、多少の心当たりはある。それは……
「なぁ、テイト、オマエが家を出たいってのはオレの所為か?」
「……違うって! 団体生活も経験した方がいいかなって思っただけだって! 昨日も言っただろ!」
「本当に?」
 フラウがテイトの目を見つめるとコクリと頷いた。
「もし、オレが嫌ならオレが出て行く、だから」
「違う! フラウは関係ない! フラウを嫌いなはずない……。オレが勝手に……。フラウこそ、オレのこと嫌いなんだろ! オレを避けて家にも帰ってこなかったくせに!」
 テイトはそう言うと下を向いて膝の上で掌を握り締めた。必死に感情を押し殺している。
 もっと、感情をむき出して、我侭を言って欲しい。
 フラウはテイトの体を抱きしめた。
「オレがオマエを嫌うわけないだろう?」
 家に帰らなかったのは、帰りたくても帰れなかったからだ。持て余した欲望が暴走しそうで怖かった……。
 洗いざらい本音をぶちまけたいが、そうしたところで何になる? テイトは純粋に自分を兄と慕っているのに……。テイトはまだまだ子供で、男で、大事な弟。
 テイトが落ち着いたのを見て取るとフラウはそっと体を離した。
「寮には入るな」
 再度、説得を試みる。もしかしたら、考え直してくれるかもしれないと、淡い期待を込めて。しかし、テイトの意思は変わらない。
「もう、決めたことだから」
「カペラはどうなる? あんなに泣いて! 淋しがっているのに可哀想だろ?」
「……フラウは? オレが居ないと淋しい?」
 淋しいに決まってる! だからとこにも行くな!
 淋しいどころかテイトが愛おしくて堪らない。抱きしめて、キスをして、押し倒して……
 フラウはなけなしの理性で暴走しそうな欲望を抑えるとテイトの部屋を出て行った。


 庭に一本だけ桜の木がある。
 夜の帳が下りた頃、ふとその桜の木に目を向けると縁側にこんもりとした山のような影が見えた。近付くと山のように見えたのは縁側の外に足を投げ出したままゴロンと横になったテイトだった。
 今年の桜は例年より早く開花し、庭の桜は早くも満開を迎えた。外灯と月に照らされた桜がテイト体に影を落とす。フラウはその光景にしばし見惚れて我に返った。
 着ていたジャケットをテイトの体にかけてやり、縁側に腰を降ろす。テイトは静かな寝息をたて、起きる気配はない。フラウは久しぶりに見るテイトの寝顔をもっと良く見ようと顔を近付けた。あどけなさが残る少年のままの表情に胸の奥が締め付けられる。頭の中で警笛が鳴り響いているがこの衝動はそんなもんじゃ収まらない。薄い桜色の唇に吸い寄せられるように口付けた。テイトの体がビクリと反応して、フラウは慌てて体を離した。
 目を覚ましたテイトは咄嗟に口元を掌で隠すと目を見張った。
 流石のテイトも今のがキスだと気付いただろうか?
 フラウは苦笑いを浮かべながら「桜の花びらだ」と薄桜色の花びらを指先でつまんで見せた。
 苦し紛れの嘘を見抜いて、弟に欲情する変態な兄だと軽蔑されるならそれでもいいさ。
 フラウはテイトの反応を待った。
 テイトは複雑な表情を浮かべると「なんだ、オレはてっきり……」と、呟くように言って口を噤んだ。
 素直に納得したのか? それとも嘘を見抜いて嫌悪しているのか?
 テイトの反応はどちらとも取れるが、フラウ自身、もう、どうでもよかった。
「そんなところで寝てたら風邪をひくぞ」
 そう言ってフラウは立ち上がった。
 桜が散るころ、テイトはこの家からいなくなる。


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とりあえずフラウ視点でお届けしました。この後、テイト視点+@の話が続く予定です。甘味が足りないのか、筆の運びがかなり遅かったですwww やっぱり、私は甘々専門www

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