※高校生、同級生設定です。原作からかなりかけ離れたパロディーとなっております。苦手な方は回避!


宇宙遊泳


 バレンタインデーなんてくだらない。
 そんな言葉を今日一日で何度呟いたかわからない。
 オレはベッドに寝転んでマンガ雑誌をパラパラと捲った。もう、ほとんど読むところはない。しかし、マンガを読む以外することが無いからまた最初から読み返す。オレはそろそろと右手に置いてあったチョコに手を伸ばした。
 ギザギザのある円錐の上の方がピンクのチョコレート。アポロなんて名前、良くつけたもんだ……そう、ひとりごちると口に放り込む。
 アポロの粒は小さいとつくづく思う。一粒を口に放り込んだだけでは食べた気がしない。3粒をいっぺんに放り込み豪快に噛み砕いた。
 ごくっ。
 飲み込んだアポロは学校の購買で買った。買った時に売店のオバサンに「誰かにあげるならラッピングサービスするよ」と声をかけられた。誰かって誰だよ? そもそもここは男子高だぞ! 男が男にあげるか普通? 心の中で一頻りつっこむとそれがあげるんだよな。と溜息を吐いた。
 きっとヤツも貰ってる。ヤツとは同室で同じクラスで金髪の間抜け面したフラウのことだ。ヤツのことだからこれ見よがしに紙袋にチョコを詰めて部屋に入ってくるにに違いない。
 カチャ。
「ただいま〜」
 噂をすればなんとやら、部屋の扉をノックもせずにフラウが入ってきた。
「入るときはノックをしろと言ってるだろっ」
 いつものオレの開口一番、ヤツを一睨みするとすぐさま視線を逸らした。
「わりぃ」
 反省の色など微塵も感じさせない抑揚の無い声で応えると平然とオレの隣に腰を降ろした。
 コイツは何を考えているのかわからない上、無神経なところがある。オレは今、とてつもなく機嫌が悪く一人でいたいのだ。同じ寮で同室なのだから無理なのはわかっている。だからせめてオレの半径1メートル以内に進入するな。
「なんだよ、向こう行けよ」
「『向こう行けっ』て、テイト……ここオレのベッド」
 そうだった。オレのベッドは上段だ。上るのが面倒だったのとフラウのベッドにマンガがあったのとでついつい此処に居座ってしまった。
「悪かったな」
 そう言ってベッドから立ち上がろうとすると「別にかまわねーよ」とフラウに腕を掴まれて引き戻された。
「オイっ」
 フラウが強く引っ張るからオレはフラウの腕の中にスポッと納まる形になった。同じ年齢なのにこのガタイの違いはなんなんだっ。
「なんだよ? 今日はいつもに増して機嫌が悪いな? 生理か?」
 なっ、あるわけないだろ男のオレに! 呆気に取られフルフルと握りこぶしを震わす。
「どーでもいいから、離してくれっ」
 ここでキレたら負けのような気がして冷静さを装いながら体を捩る。
「やだね」
 って、オイ!
「やだねじゃねぇ〜!離せっ」
 結局キレてしまったではないかっ。なのにフラウは
「お、アポロじゃん。一個くれっ!」
 って、人の話を聞け!
 しかも、一個と言っておきながら片手で箱から口へとダイレクトに流しこんだ!
「あ、オレのアポロ……」
「片手塞がってんだからしょーがねーだろ?」
「だったらオレを離せよっ」
 そしたら両手が自由になるだろうがっ!
 いや、その前にアポロを食っていいと言った覚えはナイ!
「なあ、テイト」
「……」
 オレとコイツの言語は異なるのだろうか? オレは「離せ」と言っているのに巻き付いた腕は離れるどころか強くなった。
「今のチョコはオマエからのバレンタインチョコってことでいいか?」
「はぁ?」
 言ってる意味がわからねぇ!そもそも
「フラウは山ほどチョコを貰っただろうが? そんなに数、稼ぎたいのかよ?」
 もう、呆れて溜息が出る。体に巻き付いた腕はこの際置いとく。
「数は関係ない。テイトからのチョコレートが欲しい」
「なっ?」
 益々、意味がわからねぇ。
「テイトのチョコだけでいい。他はいらねぇ」
 何言ってやがるっ。
 フラウの手がオレのアゴを捉えて無理やり顔を上げさせられた。
「テイト、顔、真っ赤」
「煩い」
「なぁ、キスしていいか?」
「ぜってーダメ」
 覗き込むフラウからなんとか顔を背ける。
「ダメって言ってもする」
 結局フラウに無理やり唇を吸われた。だったら聞くなよ。
 そして、当然のことのように服の中へと手が滑り込んだ。
 こうなるとオレがどんなに抗ってもガタイの差で負ける。
「昨日もしたじゃん」
「今日もすんだよ」
「……」
 フラウとは既に体だけの関係だ。フラウはオレの方が先に誘ってきたとか言ってるが、それは違う。
 夏の暑い盛り。たぶん暑さのせいで麻痺していたんだ。何故かそんな雰囲気になって互いに飲み込まれて流された。
 それからずるずると関係は続き、オレは密かに今日で終わりにするつもりだった。
 フラウはいっぱいチョコを貰う。その中から可愛い子をチョイスすればいい。オレみたいな扱いづらい変わり者じゃなくて、フラウにはもっと素直で優しい子が似合う。
 そう、一年生で一番人気の。体育館の裏に呼ばれて行っただろ? あの一年はオレから見ても可愛いと思う。フラウに告白する姿はまるで少女のようだった。並んで歩いているところを2階の廊下の窓から眺めていたオレは胸が苦しくなって、その痛みから逃れるようにその場を離れた。
 今日だけじゃない、フラウが誰かに告白されたと聞く度に胸が痛む。



「チョコレートなら全部断ったぜ」
 事が終わるとフラウは思い出したかのように呟いた。
「え?」
「言ったろ? テイトからのチョコだけでいいって」
 そう言うとフラウはオレのアポロを最後の一粒まで食い尽くした。
「テイトだけでいい」
「どういう意味?」
 胸が苦しい。オレは可愛くもなければ素直でもない。全然、フラウに似合わない。
「オマエが好きだって言ってんの」
 フラウの掌がオレの頭を優しく撫でる。
「オマエもオレにしとけ」
「……」
 なんだ?それ?相変わらずフラウの言ってる意味がわからない……
 フラウは宇宙人なのかもしれない。やっぱり扱う言語が違うのだ。
「なあ、機嫌直ったか?」
「全然、寧ろ気分が悪くなった」
 フラウが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「やっぱ生理じゃ……」
「あるか!そんなもん!」
 再びオレは拳を握り締めるとフルフルと振るわせた。
 そんなことより


「オレのアポロ返せ!」



2月14日に続きます。


※ちょっとただれた関係のフラテイが書きたかったんですよ。