独占欲【前編】
何やってんだオレ? と、今更ながら思うのはちょっと素に戻ったオレが居るから……
フラウの圧し掛かる腕を重いっと思いながらも心地良いと感じてしまうのはフラウの事を好き過ぎるバカなオレが居るからだ。
本当にオレはバカだっ! なんでこんなヤツを! と思うのだけど嫌いになれないし、実際、好きなんだから仕方無い……
オレはしょうもない酔っ払いの腕の中から抜け出そうと身を動かした。
思い起こせば数時間前。
フラウの知り合いだというバーのマスターからお手伝いを頼まれたオレはカウンター内で摘みを皿に盛ったり、グラスを洗ったりと真面目に仕事をこなしていた。フラウはといえばいつものようにホスト紛いなことをやっている。どうやらここら辺の地主だとかいう御夫人がフラウを偉く気に入ったらしく片時も離れようとしない。
またかよ……
いい加減見慣れたお約束の光景をなるべく視界に入れないようにと自分に任された仕事に励む。
フラウが女性に慕われるのは今に始まったことじゃないから気にならない……なんてことあるかっ! 気になって仕方無いよ。
酒の席とはいえあからさまな女の態度、大胆に開けた胸元も、フラウを見るいやらしい目も、長めのスリットから見える網タイツも全部が全部気に入らない。
この店の常連さんだろうからフラウも邪険にはできないのだろう。きっとそうだとしてもだ。もう、いいだろぅ? いいかげん離れろっ!
「テイトくん。テイトくん!」
仕事に没頭しすぎて(フラウの事を考えるあまり)マスターの呼びかけに気付かなかった。
「あ、ハイ」
慌てて返事をして顔を上げるとマスターはニコニコと笑みを浮かべていた。
「お疲れ様、もう、上がっていいよ」
そういうとオレの手にお駄賃を握らせてくれた。
「あ、マスターいいです、こんなの」
今夜はマスターの好意で宿を提供してもらっているから駄賃を貰うわけにはいかない。
「少しだから気にしないで、これでさっきの坊やにお菓子でも買ってあげなさい」
マスターは強引にオレの手に押し付けた。
「ありがとうございます。マスター」
オレはマスターにお礼を言うとフラウを残して部屋へと引き上げた。
正直、お駄賃はありがたかった。フラウと一緒だから何に不自由するという訳では無いけどマスターが言ってたようにカペラにお菓子を買ってあげたいし、フラウにも何か……
フラウ……。ええい忌々しい。
まだ、例の女と一緒なのかと思うとムカムカする。その女がフラウの隣からどいたところでどうせ、又、別の女がその場所を狙っているに違いない。
フラウの隣が必ずしも自分の指定席なワケじゃないって解っているのに……
マスターに宛がわれた部屋に入る前に気持ちを落ち着かせようとカペラとミカゲの寝ている部屋のドアノブを捻った。
すやすやと寝息をたてて寝ているカペラを見るとホッとする。
「今日は一緒に寝てやれなくてゴメンな」
そっと呟く。
ミカゲがオレの気配に気付いて布団から這い出てきた。
「ミカゲ、カペラをたのんだよ。おやすみ」
オレの肩に移ってきたミカゲにキスをするとミカゲは再び布団の中へと潜っていった。
そっとカペラの部屋を出て隣の扉を開ける。
ガランとした部屋にベッドが二つ。浴室はカペラ達の居る部屋と共有するように造られている。
中庭に面しているからか繁華街にも関わらず外の喧騒がまったく聞こえない。
「静かだな」
カーテンの閉まった窓へ近付き外を眺める。人気のない中庭には小さなテーブルセットが置かれ、数本の木と花壇、石壁には蔓が這っていて快適そうだ。マスターの奥さんか娘さんが世話しているのだろうか?
ラブラドールさんのハーブティーを飲んだら気持ちいいだろうな……
あとでマスターに頼んでみよう。
「チリリリリリン!」
明朝のスケジュールをあれこれ考えてると突然部屋の隅の電話が鳴った。
「はい?」
『あ、テイトくん』
慌てて受話器を取るとマスターだった。
『申し訳ないんだけど、ちょっと店に来てくれる』
ちょっと困った様子のマスターの声に「はい、すぐ行きます」と慌てて部屋を出ると階段を駆け下りた。
「マスター?」
店の中を覗き込むと案の定、困った顔のマスターが居た。
「フラウがめずらしくつぶれてしまってね。わるいんだけど部屋まで連れてってくれるかな?」
「え?」
フラウの酒の強さは誰よりも良く知ってる。オレが店を出るときはまだ素面だったのに、あれから30分も経ってない。
隣に座った女も呆れ顔だ。そしてフラウを見るとテーブルに突っ伏してすっかり眠りの体制だ。これではマスターもお手上げだ。
「フラウっ! 起きろよっ!」
とりあえず大きく揺すって声をかけてみる。
「あ?テイト?」
「フラウ、歩けるか?」
「や、無理ぃ」
「ったく、しょうがねーな」
オレは仕方なくフラウを担ごうとすると周りのおじさんたちが慌てて止めた。「ちょっと、君にそんな大男運べるの?」って、失礼なっ。
「ご心配なく」
オレは一呼吸するとフラウを肩に担いだ。回りからは拍手喝采。いかんせん身長差で足は引きずるようだが運べなくはない。
「お騒がせしました」
ペコリと頭を下げると店を出た。なぜかポケットがお金で膨らんでいる。出掛けにお客からチップを詰め込まれてしまった。
もしかして今日のオレはフラウより稼いだかもしれない……。それにしても、フラウが瞑れるなんて珍しい。
「まったく、だらしないなフラウ」
自力で歩く気配の無いフラウを担ぎ、仕方なく3階の自分達の部屋まで階段を一つ一つ上っていく。
部屋の扉を空けベッドのところまで辿り着くと流石のオレも力尽きてフラウもろともベッドへと倒れ込んだ。
「疲れた〜。ったく、これ貸しだからな〜フラウ」
バシッと頭を叩くと腕を掴まれた。
「あ、起きてたのかよ」
「わかった。今すぐ返すっテイト、#%&$#*=■▽」
って、ダメじゃん、全然呂律が回ってない。酔っ払いフラウは意味不明な言葉をブツブツと呟くとオレに覆い被さってキスをしてきた。
「ああ、もう、この酔っ払いが〜」
酔っ払いのくせに力が強いから抵抗するのも大変で、仕方がないから好きなようにさせることにした。オレも正直疲れてんだよっ。
口内をかき回す程の濃厚なキスでオレの息も上がる。こんなキスでうっかりその気になってもどうせフラウは寝るんだろーがっ。解っているのについつい背中に腕を回してしがみ付く。仕方無い……こうして抱き合うのも何日ぶりかだ。フラウの喉元に鼻を摺り寄せる。
「テイト……」
フラウが独り言のようにオレの名前を呼んだ。流されそうになったオレだがふと我に返って
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※とりあえず区切ります。にょほん