蜜月7「ビターボイス」
※「ビターボイス」の続きです。



 早く寝なければと思えば思うほど眠れなくなるのはナゼだろう?
 早々にベッドに入ったものの頭は冴えるばかりで余計なこと、本当にまったく必要の無いことが頭の中を支配している。
 カペラの寝息さえも気になって布団の中でもぞもぞと寝返りを打つ。
 マジで早く寝ないと…気持ちは焦るが眠気は一向に訪れない。

 カチャ

 浴室の扉が開きヤツがベッドに近付いて来る。
 ヤバイ!もう、ここは寝た振りを通すしかない!固く目を閉じ微かな寝息を立てる振りをした。
「もう、寝ちまったか?」
 頭上からフラウの呟きとともに溜息が降ってきた。
 寝た寝た!熟睡中だから話かけんな!オレは布団をギュッと握り締めた。
「!!!!!」
 布団の隙間からフラウの手が滑り込みオレの頬に触れた。
「テイト?」
 そんな声だしてもオレは起きねーぞ!フラウが触れている指先に神経が集中して心臓は早鐘状態だ。
「……」
 必死に熟睡中を装ってるのに頬に触れたフラウの手は離れる気配が無い。離れるどころかそろそろと体を徘徊し始めた!
「寝たふりじゃないのか?テイト?」
 ヤバイ、バレてる?それでもオレは寝たふりを通した。いわゆる拒絶という意思表示だ!意地でも起きるもんか!!!!!感嘆符五つ付けるほどオレの決意は固い!
「ま、オレはオマエが寝ててもかまわないけどな」
「……?」
 嫌〜な予感が脳裏を走り背筋に悪寒が走る。フラウの掌は執拗に体を這い回り一番触れて欲しくない部分に辿り着いた。
 ああ、もう!バカヤロウ〜!フラウに与えられる刺激にオレは必死に耐える…って、耐えられるかっ!!!図に乗りやがってこのエロ司教が〜!
「フ〜ラ〜ウ〜っ!」
 顔の部分だけ布団をめくるとフラウを睨みつけた。
「お!起きたか?テイト」
「起きたか?じゃね〜!なんだこの手は!」
 カペラが起きないように声のボリュームは絞ったが怒りはマックスだ!
「もう少し辛抱しろよ。ここからがお楽しみプレイだろうがっ!」
「!」
 どんなプレイだ!!怒りの余り声も出せずただただフラウを睨み付けた!
「で、どうするんだ?続きするか?あっちの部屋で?」
 辛いだろ?とでも言いたげな顔でフラウは眼を細めた。
 くっそ〜!感嘆符を五つも付けたオレの決意はここで脆くも崩れかけている。
「…れてけ!」
「ん?」
 悔しさの余り搾り出すように発したオレの声を、聞き取るようにフラウが顔を近づけた。
「連れてけ!」
「歩けないのか?」
 ああ、歩けないさ!悪いか?いったい誰のせいだよ!
 誰の一言で眠れなくなったり、チョコ貰ったぐらいで嬉しくなったり、耳元で囁かれて腰砕けになってると思ってんだよ!
 オレはフラウの首にしがみつく。
「泣くなよ」
 フラウはオレを抱き上げると頭をポンポンと叩いた。
「泣いてない!」
「はいはい」
 泣く子をあやす様にフラウの声が優しい。
 オレを抱きかかえるフラウの腕と体を預けた胸板に風呂上りのフラウの体温を感じて、今までの怒りが溶けていく。
 気持ちが落ち着くとフラウの腕の中の居心地の良さに眠気が訪れた。寝ようと思っても全然眠れなかったのに…
「ふあっ」
 欠伸が零れ、首に回した腕の力が抜けていく。
「寝るなよテイト…」
「ん…」
 フラウが腕に力を入れてオレを抱きしめる。
 気持ちいい…幸福感がオレを包み込み睡魔がオレを支配しにかかる。
 ここでオレが眠ったらフラウはどうするだろう?
 無理にでも起こしにかかるかな?
 でも、フラウ、ごめん。たぶん起きないと思う…
 眠りに落ちる瞬間、額に何かが触れて「おやすみ」と呟いた…
 ような気がした。




Fin