幸せのチョコレートレシピ【ブラウニー】

「マダム。キッチンかりていい?」
「ああ、いいよ」
 カペラとオレは両手で紙袋を持ちながらキッチンへとなだれ込んだ。
「おやおや、いったい何が始まるんだい?カペラ?」
 宿の女将がカペラの顔を覗き込む。
「ヴァレンデータインのケーキ作るの」
 ああ、カペラ、また間違えてるよ。そんなところが可愛くてしょうがないのだがちゃんと正しい名前を教えてあげる。
「ヴァレンタインデーだよ。カペラ」
 にっこり微笑むとカペラも満面の笑みで微笑み返した。
「あい。ヴァレンデータイン!」
 ああ、直ってないし…
「そうかい。そいつはいいやねカペラ。出来たらオバサンにも食べさせておくれ」
 女将がカペラの頭を優しくなでるとカペラは「あい」と嬉しそうに応えた。
「何だ?また、随分買い込んだな?何が始まるんだ?」
 どこからともなくフラウがキッチンに顔を出した。オイオイ、お呼びでないんだよ!オマエは!
「オレも混ぜろ〜!」
 フラウに首を絞められオレは仕方なくホレっと一枚の紙をフラウの顔に貼り付けた。
「何だ?コレは?」
「ラブラドールさんから」
「ラブから?何々『テイト君へ…』」

テイト君へ
みんな元気そうで何よりです。
ところで、2月14日はヴァレンタインデーだよ。テイト君はその日に因んだ風習があるのは知っているかな?好きな人にチョコレートをプレゼントするっていう。素敵だよね。
そこで、テイト君にとっておきのチョコレートレシピを伝授するからチャレンジしてみて!

「で、オマエ、コレ作るのか?」
 そう言うとフラウはラブラドールさんの手紙を指に挟んでヒラヒラさせた。
「ああ」
「そして、オレにくれるのか?」
 当然のようなフラウの態度に多少イラつき覚えたが、オレも、もうガキじゃないんだ。冷静に応える。
「いや。作ってカペラと食べる」オレはカペラのところを強調して言った。
「オレには?」
 さぁ?オレは両手を広げて見せた。生憎、フラウへのプレゼントは考えてない!
「…」
「フラウ兄ちゃんにもちゃんとあげるよ」
 そう言うとカペラが目をうるうるさせた。
「ありがとうカペラ!」
 優しいカペラの言葉にフラウが抱きついた!
「フラウ兄ちゃんも一緒に作ろ!」
「え?」
「じゃ、みんなで作ろうか?」
「あい!」
「おいおい。何で…?オレは手伝うとは一言も…」
「はいはい」
 オレはラブラドールさんのレシピをフラウに渡すと紙袋からチョコレートを取り出した。
「『チョコレート170gを適当に刻み、バター100gと一緒に溶かす』と書いてあるぞ」
 フラウがラブラドールさんのレシピを読み上げた。
「了解!」
 オレはナイフを手にすると高速でチョコレートを刻みボールの中へ放り投げた。
「おお〜」
 フラウとカペラから歓声と拍手が起こる。
「カペラ、このチョコとバターをザイフォンで溶かして」
「あい」
ヴォン
 カペラは起用にザイフォンを使ってチョコをみるみる溶かしていった。
「いいぞ〜カペラ!『それに砂糖30gを加える』」
 フラウの指示に従ってオレはカペラのボールに砂糖を加えた。
「『さらに卵2個を加えてよ〜くかき混ぜる』
 卵2個を割りいれたボールをフラウへパスする。
「何?」
「かき混ぜるんだろ?」
「だからなんでオレ?」
「適材適所だ。フラウ意外いないだろ?」
 そう言いながらオレはオーブンをセットした。180℃に余熱っと。
「しょうがね〜な〜」
 フラウが腕まくりのポーズをとって右手を振り上げた。
「オレのこの黄金の右腕が遂にベールを脱ぐ時が来た!」
「はいはい。くだらないこと言わなくていいから高速でよろしく!」
 オレが言うまでもなくフラウは泡だて器を手にするとあっという間にボールの中身を融合させた。
「どうだ!」
 自分の仕事を誇らしげに見せ付ける。まったく大人気ないヤツ。
「すごいやフラウ兄ちゃん!」
 尊敬の眼差しを贈るカペラに相反して冷ややかな視線を送る。
 オレはフラウからボールを取り上げると胡桃を50g加えた。
「次は『振るった薄力粉が70g』だとよ」
「あいよ!」
 オレは粉を入れるとざっくりと混ぜ合わせた。粉っぽさが無くなったら型へと流し込む。
「後はコレをオーブンに入れて30分待つだけか。意外と簡単だったな」
 粉の付いた手を叩きながらオーブンの中を覗き込む横でカペラも一緒に覗き込んだ。
「たのしみ〜へへ」
「なんだか甘そうだな…」
「だったら、フラウは喰うなよ」
「喰うって!」
「みんなでたべるぅ」
「カペラ!オマエはホントに可愛いな〜クソガキと違って!」
「なんだと、コラ〜!」
「きゃ〜」
「きゃ〜」
 カペラにしがみ付いたフラウの首を絞めるとフラウとカペラが一緒になって悲鳴を上げた。そんな二人がおかしくてオレは呆れると同時に腹を抱えて笑った。つられてフラウとカペラも笑い出す。
「さてと」
 オレはラブラドールさんが手紙と一緒に送ってくれたハーブティの準備をした。
 そろそろ、ラブラドールさんのレシピも焼きあがる。
 味はきっと美味しいに違いない。だって、こんなにも幸せな気持ちにさせるレシピなのだから…
 オレはキッチンに立ち込める甘い香りを思い切り吸い込み、フラウとカペラの期待の眼差しを一身に浴びながらそーっとオーブンの扉を開けた。


Fin ※上記のカペラのザイフォンを電子レンジに、フラウの黄金の右腕をハンドミキサーにそれぞれ代用してお試しください。それなりのブラウニーになると思います。

<材料>20cm×20cm
チョコレート  170g
砂糖       30g
バター     100g
薄力粉      50〜70g
卵         2個