蜜月6「family」
※「family」の続きです。



「離せ、フラウ!」
「ははは。テイト、今日はやけに抵抗するな」
 当たり前だ。こんな真昼間から何を考えてるんだ!
「このエロ司教!」
「いかにも!」
 フラウの手が忙しなく動く。
 何故、こんな事態になったのか?


 カペラに風邪薬を飲ませてベッドに寝かせるとオレはフラウが用意してくれた朝食を口にした。
「フラウ、昨夜はありがとな」
 パンに噛り付きながら昨日の礼を言う。オレは結局、朝までぐっすり眠ってしまいカペラの看病はフラウにまかせきりだった。
「気持ちがこもってないな〜テイト…ふぁ〜っ」
 そう言うとフラウはソファーが後ろに倒れそうなほど反り返って欠伸をした。
「え〜?そうか?」
 これでも感謝の気持ちを込めたつもりなのだが。マグカップのミルクを飲み干すと同時にフラウを盗み見る。
 よっぽど疲れているのかソファーに深く沈んだ姿は生きる屍と化していた。
「フラウ?眠ったのか?」
 恐る恐るソファーに近付くとフラウの顔を覗き込む。
 死人のような顔色のフラウに思わず苦笑いしたがさすがに申し訳ない気持ちが募った。
 ほとんど寝てないもんな…
「ほんとに感謝してるって…」
 眠っているフラウの唇にそっと自分のを重ねる。
「わっ!!!!てめっ寝たふりかよっ!」
 寝ているはずのフラウの腕が腰に回され、オレは不覚にも自由を奪われた。
「まったく可愛いことしてくれるな。クソガキ!これじゃ、どうにも収まりつかねーだろ!」
「し、知るか!離せ!エロ司教!」
 ソファーに座るフラウを跨ぐ格好のオレ。部が悪いのは歴然だ。
 フラウは瞬く間にオレのシャツをたくし上げ執拗に吸い付いてくる。
「やめろ!フラウ!まだ、昼間だぞ!」
 カーテンが閉まってるとはいえ部屋の中は適度な明るさだ。しかも隣の部屋ではカペラが眠っている。
 オレの本気の抵抗にフラウが項垂れる。もう騙されねーぞ。
「なぁ〜俺は看病で疲れてんだよ」
「だったら…大人しく…寝てろって!」
 疲れてるとか言いながらいつの間にかシャツ一枚にされてるし。
「じゃあ、ちゃんとしたキスさせろ」
「んん…」
 貪りつくようなキスにオレは空気を求めて喘ぐ。
 ずるいぞフラウ…
「疲れてるんじゃないのかよ…」



「こういうのも悪くないな…」
 結局、フラウに跨ったままのオレ…
「何が…悪くないだ…クソっ」
 オレの息が上がっているのはフラウのソレがきっちりオレの中に納まっているから…。
「んん…フラウ?」
 体を這い回っていた手が止まる。
「オレは夕べ一晩中カペラの看病したからな…」
「だか…ら…何…だよ!」
「疲れて動けないから自分で動け。テイト」
「!!!!!」
 このエロ司教!!!
「別に俺はこのままでもかまわないが…」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるな!
「お、オレ…だって…別に…かまわな…んっ」
「テイト、腰、揺れてる…」
「だから…そう…いうこと…言うな…」
 中途半端な状態で放置されたオレはもどかしさに絶えられず仕方なく自分から動き始めた。
「テイト…」
「もう、フラウ…」
「『お兄様』って言って、それか『お兄ちゃん』でもいいや」
「何、バカ…言ってん…だよ!!!」
「……」
 期待に満ちた視線をオレに向けるな!
「お、お兄…ちゃん?」
 これでいいんだろ〜!!!
「『お願い、お兄ちゃん!』って、言って!」
 思いっきり面白がってるな!オレに何言わせたいんだよ〜!!!
 フラウはオレの目尻に溜まった涙を嘗め取ると先を即す。
「テイト?」
「くそっ!…お願い、お兄…ちゃん…アッ」
「良く出来ました!」
「やっ…フラウ!」
 フラウが容赦なく下から突き上げる。
 疲れてるんじゃ無かったのかよ!


「もう、息をするのもしんどい」
 こんどこそ本当の生きた屍と化したフラウは息も絶え絶えにそう漏らした。
「だったらやらなきゃ良かっただろ!」
「そうは言っても、オマエ…あの状況でしなかったら男が廃るってもんだろうよ」
「何言ってんだか…」
「そもそも、俺様を誘惑したオマエが悪い!」
「!!!!」
 だ、誰が誘惑したんだよ!
 オレは怒りのあまり頭突きをお見舞いした。
「痛って〜このクソガキ!何しやがる!」
「う、煩い!このエロ司教が!」

カチャ。

「!!!!!」
「!!!!!」
 扉の開く音に一斉に視線を向ける。
「お兄ちゃんたち、喧嘩しちゃだめ…」
 半泣きのカペラが目を擦りながら扉の間から顔を出した。
「カ、カペラ!お兄ちゃんたちは喧嘩なんかしてないよ」
 オレは慌ててカペラの元に駆け寄る。
「そうだぞカペラ、寧ろ仲が良すぎるぐらいだ」
「…」
 フラウの言葉は軽く流してオレはカペラを抱き上げるとベッドへと向かった。
「さあ〜カペラ、お兄ちゃんともう少し寝ような」
「う…ん…」
 オレ達が喧嘩していると思い込んでいるカペラは不安な色を浮かべている。
「じゃ、俺も…ふぁ〜マジで疲れたし…川の字で寝ような、カペラ」
 フラウがカペラの頭を優しく撫でる。
「あい!」
 ようやくカペラの顔から笑みが零れた。
「はぁ〜」
「ん?どうした?テイト」
「別に…」
 さっきまでの自分のあられもない姿を思い返して思わず溜息が零れた。
 さらにカペラの天使のような笑顔!オレの良心が痛まない筈が無い!
「ま、気にするな!」
 フラウの手がオレの肩をポンっと叩く。
「!!!!」
 き、貴様が言うな!
「テイト兄ちゃん?」
「な、なんでもないよ。カペラ!」
 オレは慌てて笑顔を作った。頭の中でフラウへの仕返しを20通り程、考えながら…




Fin