続・月夜の晩にダンスはいかが… 3
 琥珀色の液体を喉の奥へと流し込む。安物のウイスキーだったがまあまあといったところか。
 グイッと煽ると居間のソファーにゴロリと寝転ぶ。ここは安宿だが主の好意で居間と寝室の2部屋を用意してくれた。
「助かったな…」
 今の俺の精神状態ではとてもテイトと同じ部屋には居られない。
「このソファーでボトルを抱いて眠るのも悪くない。か」

 キィ。寝室の扉が開き、ひょこっとテイトが顔を出した。
「……」
 じいっと俺の顔を見つめて、何がしたいんだ?
「フラウ、まだ、寝ないのか?」
「ん?ああ…どうした?怖い夢でも見たのか?クソガキ」
 勘弁してくれよ。俺はオマエから離れる為にわざわざ居間で寝ようとブランケットまで持参してきたんだぞ!
「別に怖い夢なんて見ねーよ」
 テイトの頬が染まって見えるのはアルコールで俺の眼が充血しているからなのか?
 それとも…マジで…キス以上のことを期待されてるとか?いや、そんな筈はねぇ。ヤツはまだまだ子供だ。大人の恋愛なんて10年早い!
「それ、美味いのか?」
 テイトがウィスキーのボトルを指差した。
「それほど美味いもんでもねーよ。って、オイ!」
 テイトはボトルからグラスに注ぐと俺が止めるのを聞かずに口に含ませた。飲み方を知らないテイトは案の定むせ返った。
「ゴホッ…ゴホッ…不味い…」
「バカかオマエは!初心者が生意気にストレートで飲むんじゃねー!ホレ、水だ」
「ん…もっと美味しいのかと思った。大人はみんな楽しそうに飲むし…なのに…消毒液みたいだ。ソレ」
「消毒液か…確かにな…」
 不貞腐れた顔をしたテイトはテーブルの向こう側で動かない。いったい何がしたいんだ?
「こっち来い、テイト」
 警戒している小動物を呼ぶように手を伸ばす。引っかかれるか噛まれるか?はたまた回れ右をして逃げ出すか?
 しかし、テイトは俺の手を取った。その手を強く握ると自分の方へと引き寄せた。
「怒ってるのか?テイト」
 少し抵抗を見せるかと思ったがテイトは素直に身を預けてきた。
「別に怒ってない…」
「そうか〜?ものすごく機嫌悪いように見えるが?」
 なすがままのテイトに気を良くした俺は包み込むように優しく抱きしめる。
 ここまでだ。これ以上は歯止めが効かない。今だってキスしてソファに押し倒したい!
 なけなしの理性が働く内にテイトから身体を離した。
「……まったく、なんだよ!」
「え?」
 いきなりテイトが切れた…何で?
「さっきっから!見え見えなんだよ!今更聖職者気取ってんじゃねー!キスしたいならすればいいだろう!」
「テ、テイト、落ち着け。カペラが起きる…」
 テイト…キスだけじゃ、収まりが利かないよ。お兄さんはもっと凄いことまで望んでいるんだ。
「いつまで子供扱いなんだよ。10年待たなきゃならないのか?それまで生きてるかどうかも解らないのに…オレ達に明日があるのかさえ…」
 テイトの目から大粒の涙が零れた。
「ごめんなテイト。泣くな」
 俺は慌てて泣く子をあやすようにテイトを膝に乗せて抱きしめる。子供扱いするなと言われてもな…
 ええい!思い切ってテイトに口付けた。当然、舌も割りいれる!オマエががまだまだひよっ子のクソガキだと思い知らせてやる!
「……!なっ」
 あろうことかテイトはしっかりと吸い付いてきやがった。俺が初めてじゃないのか?しかも俺の首にしっかりと腕を回して!!!!!
「テ、テイト!」
「何だよ?」
「オマエ、いったい誰とこんなキスを?」
「さあ、誰だったか?」
「!!!!!」
 う、嘘だろ?誰だ?俺より先にコイツを汚したヤツは!許さねー。絶対! 必ず! 近いうちに! 狩ってやる!!!!!
「続き、しないの?」
 ああ、そんな言を言わないでくれ!俺の聖域だったんだぞ、オマエは!
 うろたえる俺をテイトが無垢な表情で覗き込む。見た目と言動が合って無いぞ。
「…する」
 俺はテイトの首筋に舌を這わせた。
「で、オマエに悪さしたヤツを片っ端から吐け!」
「そんなの居ないって…フラウくすぐったい」
 そう言ってテイトはクスクスと笑う。さっきの涙は演技か?
「嘘を付くな!」
 首の付け根に痕が残るように強く吸った。
「まあ、キスぐらいは…」
「誰だ?ミカゲか?ハクレンか?」
「はは、嘘だって、キスもフラウが初めてだよ!」
 信じね〜!!!!!
 こうなったら身体に訊いてやる!って、散々悩んでいたのにいつの間にかテイトを押し倒してるじゃねーか!
「なあ、ホントにいいのか?」
「もう、しつこいな〜。ホラ」
 テイトは俺の手を引くと自身に導いた。確かに反応してるが…。
「小さいな」
「う、うるせー!!!!」
 暴れるテイトを強く抱きしめる。もう、オマエは俺の獲物だ。
「覚悟しろよ!」
「フラウ…」
「泣いても、止めねーぞ!」
 テイトは返事をする代わりに強くしがみ付いてきた。


 頭の中には呆れた顔のカストルと面白がるラブの顔が過ぎる。
『だから言ったでしょ。優しくするだけじゃダメだって』そう言うとラブが微笑んだ。
『もう、後戻りはできませんよ!』カストルが深い溜息を零す。
 ああ、二人とも解ったよ。
 俺はテイトにめちゃめちゃ惚れてるよ。誰にも触れさせず俺の中に閉じ込めて置きたいぐらい。

『オレ達に明日があるのかさえ解らないのに…』

 そうだよな、テイト。だから現在を後悔しないように、思いっきりオマエを愛してやる…



Fin
※飲酒は20歳を過ぎてから(笑)