続・月夜の晩にダンスはいかが… 2
『早く帰って来てね!(ハート)』と言って送り出してくれたから(実際には『さっさと行ってきやがれ!』と言われ、部屋から蹴り出された)てっきり起きて待っていてくれるのかと思ったのだがしっかり眠っていやがる。
 
「まったく気持ち良さそうにすやすやと〜」
 人の気も知らないで…最後の言葉は口に出さずに飲み込んだ。
 こうして見るとホントに子供だよな。カペラと並んで眠る姿は本当の兄弟のようで微笑ましい。
 互いに好きあっているのなら、大人な関係に持ち込みたいところだが天使のような寝顔は正に聖域!汚れなき天使!
 そもそも、テイトをどうこうしようなんて考えは端から無かったのだ。妄想はしたが現実化しようなんてこれっぽっちも…少しは…いや多大にあるが…
 ただ、少しでも長く傍に居られればそれでいい、そう思っていた。
 テイトに告白されたことが嬉しくて、キスしてくれたことが夢のようで、現実を忘れてちょっと(かなり)舞い上がっただけのこと。
「……」
 テイトの額に掛かった髪を掬い上げると、あどけない寝顔が一層幼くなった。
「ん…。フラウ?」
 テイトが重そうな瞼を開けた。
「ただいま」
 溢れ出るテイトへの思いを込めて言う。本当は抱きしめてキスしたい。
「…おかえり」
 そう応えたテイトの顔が不機嫌に見えるのは気のせいだろうか?
 寝起きは大概不機嫌だからな…
 密かにお帰りにキスを期待したのだがこの様子だとそれは無いと悟った。
「おやすみ、テイト」
「おやすみ」
 テイトが再び眠りに付くのを見届けてから浴室に向かった。
 不機嫌そうなテイトの態度は正直、拒絶されたようでショックだった。
「俺、何か気に触ることしたかな?」
 頭から熱いシャワーを浴びると鎌が再び唸りを上げはじめた。
 ったく、俺だってアイツを食べたいよ…別の意味で…。
「はぁ〜」
 自然と溜息が零れ、そっと唇に指を這わせる。この唇にテイトが触れたのは2時間程前のことだ。
 これまで数多くの女を泣かしてきたが、男の子は未経験。
「難しいな〜」
 ふと、頭の中にラブとカストルが浮かんだ。恋愛相談なんてこれっぽっちもしたことは無いが無性に二人と話したくなった。
『まーた、アナタは良からぬ事を考えてますね。フラウ』そう言って眉毛を吊り上げるカストルの顔を想像する。
「ぜってー言いそう〜」
『フラウは相手の気持ちに疎いから…だからいつも振られちゃうんだよね〜』笑顔でキツイことを言うラブ。
「ああ、それを言ったらお終いよ!」
 地でコントを繰り広げていたあの頃が懐かしい…ちょっとホームシックか?
 二人とも信じないかも知れないけど、俺、今回はマジなんだよね。
『そんなこと、アナタがテイト君と出合った時から解ってましたよ』
『そうそう、こうなることも知ってたよ』
 …そっか、俺はテイトに一目惚れしてたんだな。
『テイト君を大事と思うならこのまま大人しくしてなさい。その方がアナタの為です』
『カストルは真面目すぎるんだよね。大事にされる事が必ずしも嬉しいとは限らないよ』
『今なら引き返せると私は言っているんです』
『ここまで来たら引き返すもないでしょ』
 とうとう、頭の中の二人は討論を始めてしまった。
「はいはい。勝手にやっててくださいよ」
 バスタブから出るとタオルを掴んで浴室を出た。
 少しアルコールを胃に流し込んで今日は眠ろう。
 それぐらい許されるだろう?