子供の時間
 先ほどからずっと視線を浴びている。
 下から見上げるように注がれるその視線の主は言わずと知れたカペラだ。
「な、何?」
「べつに…」
 反抗期なのか?何か気に入らないことでもあるのかカペラ?
 今までが素直すぎただけでこれが本来のカペラなのか?いや、そんな筈は無い。カペラは思いやりのある優しい子。オレの天使だ!きっとオレに原因があるに違いない。昨日から今にかけての自分の行動を振り返るがこれといって心当たりはない。いったいオレは何をやらかしちまったのだろう?


 フラウに連れられて街へと買出しに出た俺達は屋台に置かれた椅子に座り少し遅い朝食を食べていた。
 それにしても人が多い。大通りに出るなりフラウと逸れそうになり面倒だからと三人手を繋いでようやくこの店にたどり着いた。
「なあ、祭でもあるのか?」
「さあな?店の親父にでも聞いてみろ!あ、カペラ、ソースたらすな」
 フラウの膝に乗っかりホットドックを頬張るカペラの顔をフラウがハンカチで綺麗に拭った。
「美味しいかカペラ?」
 オレは恐る恐る聞いてみる。
「あい!」
 カペラがニコっと微笑んだ。良かったいつものカペラだ!
「テイト、オマエもガキじゃねーんだから顔中で食ってんじゃねーよ!」
 そういうとフラウがオレの口の端についたソースを指で拭って自分の口へと運んだ。
「悪かったな、どうせオレはガキですよ。いつもはクソガキって言ってるくせに…」
「…」
 また、ジッとカペラの視線を感じる。
「どうした、カペラ?」
「何でもない」
 そう言うと拗ねたように視線を逸らした。
 な、何?マジで怖いんだけどオレ!
「はは〜ん。さてはカペラはヤキモチを焼いているな」
 フラウがカペラの頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「カペラもテイトにゾッコンだからな」
「何だよそれ?」
「オマエを守りたいんだと」
 カタン
 カペラはフラウの膝から降りるとオレとフラウの間に入ってきた。
 顔はそっぽを向いてるが頬が真っ赤だ。
「カペラ!」
 思わずカペラをギュッと抱きしめる。
「嬉しいよ、オレ。取り合えずコノ野獣からオレを守ってくれ!」
「コラ!誰が野獣だ!」
 カペラがオレを好き。ちょっと気恥ずかしい気もするが、それなら何で機嫌が悪くなるんだ?
「そろそろ行くか?」
 フラウが椅子から立ち上がる。
「ああ」
 オレも立ち上がるとカペラがオレの手を握った。
「ん?」
 そしてもう一方のカペラの手はフラウの手を取った。
 ニカッ
 カペラが満足そうに微笑んだ。
 ああ、そっかさっきはオレ、フラウと手を繋いでたんだっけ。
 ヤキモチってそれだけのこと?
 オレはフラウに目で問うと「そういうこと」っとフラウの目がニヤリと笑った。
 オレはガキの頃の記憶が曖昧だからカペラの感情の変化に疎いのかも知れないな…
 フラウは何でそういうことが解るんだろ?
「そりゃーオマエ、俺にしてみたらお前等ガキの考えてることなんて手に取るように解るってもんよ」
「人の心を読むなよ!」
「バーカ、オマエは特に思考がだだ漏れなんだよ!」
「…」
 ギュっ
 カペラがオレの手を強く握った。
「とんだライバル出現だな…これじゃオチオチキスもできね〜」
 フラウが溜息とともにポツリと呟いた。
 オレは込み上げる笑いを必死に噛み殺した。




Fin