月夜の晩にダンスはいかが…
「フラウ、オレも一緒にコール退治に行く!」
 扉とフラウの間に立ちはだかりテイトはフラウを見上げて言った。
「オマエは昼間担当だ。ガキはさっさと寝ろ」
 テイトを見下ろしながらそう言うとフラウはタバコに火を付けた。
「なんでだ、オレはオマエの弟子なんだろ!一緒に行って何が悪い!」
「まあ、世間的に。お子様を深夜働かせたら労働基準法に引っかかるからな…」
「はぁ〜なんだそれは!」
「いいから寝てろ!なんならオヤスミのキスをしてやろうか?」
「!!!」
 みるみるテイトの顔が赤くなった。
「はは。冗談だ。そう目くじら立てて怒るなよ。昼間はオマエに任せるから…あ、テイト!」
 フラウが指で顔かせの仕草をした。
「何だよ」
「行ってらっしゃいのキス」
「するか!ボケッ!さっさと行きやがれ!」
 そう言うなりテイトはフラウを部屋から蹴り出した。
「なんだよフラウのやつ。人が真剣に言ってるのに冗談で済ませやがって」
 独り呟くとテイトは溜息を突いた。
 フラウが時より見せる悲しげな表情が気になって仕方が無い。狩から帰ったフラウはそれこそ死人のように沈んでいる。
「普段は底意地の悪い悪党面だから気になるじゃねーか」
 もし、自分が傍に居てフラウの気持ちが安らぐなら…そう思ったテイトだが結局置いてかれてしまった。



「ついて来るなと言っただろうが」
「労働基準法だかなんだか知らないが、オレはオレの意思でここにいる。フラウには関係ない」
 雲間から射す月明かりが屋根に立つ二人の影を映し出した。
「テイト、大人しく帰ってくれ。頼む」
「フラウ?」
 辛そうなフラウの顔にテイトは息を呑んだ。月の光に照らされたフラウの口元は真っ黒に染まっていた。
「酷い姿だろ?できればオマエには見せたく無かったんだがな」
 自嘲気味に笑うと口元を拭った。
「オレはただコールを倒しに行くんじゃねー。コイツに食わせに行くんだ」
 フラウは鎌を振り上げた。
「鎌に?」
「コイツが腹を空かせるとちょっとヤバくてな…」
「…」
「なんてたって常にご馳走が目の前にいるから」
 フラウの眼が鈍く光った。獲物を物色するような視線に一瞬戸惑ったがテイトは視線を逸らせることなく真っ直ぐ見つめ返した。
「フラウになら食われてもいい…」
 『オマエになら殺されてもいい』そう言ったフラウの気持ちが今なら解る気がする。
「ハハっ!オマエ、自分で何を言ってるのか解ってるのか?」
「オレはフラウが好きだ…」
 フラウは魂が好きだといったが、魂だとかそんなことは今のテイトにはどうでも良かった。今の気持ちをシンプルに表現するなら「好き」ということだけだ。
「…直球だな…自分に正直すぎるのも善し悪しだぞ」
 フラウの眼から鋭さが消え、困った表情をするとテイトから視線を逸らした。
「し、しょうがないだろ!性分なんだから」
 今更ながら自分の放った言葉に気恥ずかしくなりテイトも顔を赤くする。
「まったく、オマエは何にも解ってねーな」
「何がだよ!」
「色々とだよ!今日の狩は終わりだ。帰るぞクソガキ」
 そう言うとテイトに背を向けると宿のある方へ高く跳躍した。
「クソガキ言うな!エロ司教!」
 追いかけるようにテイトも夜空へとジャンプする。
 『フラウが好き…』口に出したことでようやく自分の中に合ったフラウへの感情が何なのかわかった。
 晴れ晴れとした気持ちのせいか、好きと告げた自分を思い返して顔が蒸気しているせいか、今のテイトには夜の冷気も心地良い。
 一際高く跳躍するとフラウを追い越した。


 テイトはくるりと振り返るといつもの底意地悪そうな笑みを浮かべているフラウと目が合った。次の瞬間、フラウの腕がテイトへと伸びてきた。
「わっ!バカ、下に落ちる!」
「慌てるなクソガキ」
 フラウは軽々とテイトを抱き上げると宿の屋上へと無事に着地した。
「フラウ…」
 テイトを横抱きにしたままフラウは動かない。
「フラウ、降ろせよ!」
 フラウの唇がゆっくりとテイトに重ねられる。
「怖い夢、見そうなのか?」
 唇が離れるとすかさず心配そうなテイトの瞳がフラウを見つめた。
「オマエそれ、解って言ってんだろ?」
「何をだ?」
 フラウはテイトを降ろすと溜息を突いた。
「な、何だよ。言いたいことがあるなら言え!」
「…オレはまだ犯罪者になりたくないからな…」
 そう言うと部屋へと向かって歩き出した。
「意味、解んねーよ!」
 背中を向けたフラウに呟くように言うとテイトはそっと唇を拭った。
 いつもと違うキスだってことぐらい解るっての…
 テイトはフラウの後を追いかけた。
 もう少し外の冷気で顔の火照りを冷ましたかったのだが…




Fin