羊の群れを数えるかわりに…
冷たい風が頬に触れた気がしてテイトは夢から半覚醒状態になった。
「フラウ?窓しめて…」
 テイトは寝言のように呟いた。
「窓なら閉まってるぜ」
 まだ夢心地のテイトだが頬を撫でているのは風ではなくフラウの指だと気が付いた。
「あ、フラウ?お帰り」
「ん、ただいま。起こしちまったな」
 テイトは眠い目を少しだけ開けた。
「どうかしたか?フラウ」
 いつもと様子が違うフラウにテイトは不安の色を浮かべた。
「テイト、キスしてくれるか?」
 フラウは身を屈めるとテイトの耳元で囁くように言った。
「!?なんで?」
 フラウのその一言で覚醒したテイトは目を見開いた。
「怖い夢、見そうだから」
「な、…!」
 冗談だろ?そう、思ったテイトだったがフラウの悲しげな顔を見て仕方ないと身を起こした。
 チュッとついばむようなキスをすると布団の中へ潜った。
「なんで頬なんだよ?」
「キスはキスだ、どこにしようがオレの勝手だろ?さっさと寝ろ!」
「そりゃそうだが…ほっぺたはねえよなぁ…」
 フラウはブツブツと呟きながら浴室へと向かった。
「何なんだよフラウのヤツ…」
 布団の中でテイトは呟いた。


 ギシッ。隣のベッドのスプリングが軋む音がしてテイトはフラウに声をかけた。
「なぁ、怖い夢、まだ見そうか?なんならちゃんとしたキスしとこうか?」
「ブッ!」
 そう言うテイトの顔は真剣そのものでフラウは思いっきり噴出した。
「心配してくれんのか?」
「あたりまえだ!前にオマエがしてくれたからな」
「効果あったか?」
「た、たぶん…」
「そっか」
 フラウが嬉しそうに微笑んだ。
「何だよ、人が心配してやってんのに、へらへらしやがって」
「ああ、わりぃ。大丈夫だ。ありがとな、テイト」
「…おやすみ」
 テイトはそう言うと反対へ向きを変えた。
「なあ、テイト」
「今度はなんだよ!」
「こっち向けって」
「ああ、もう!」
 向き直ったテイトはフラウをにらみ付けた。
「テイト、ずっと一緒だからな…絶対オレから離れんなよ」
「…な、何だよ、今更。そ、それに離れたくても、コレがあるから離れらんねーだろ!」
 テイトはグイッと顔を突き出しこれ見よがしに首を指差した。
「ああ、そうだったな」
 フラウがまた嬉しそうに微笑んだ。
「まったく何だよ。変なヤツ。調子狂うぜ…」
 テイトはブツブツ呟くと布団の中へ潜っていった。


「やっぱり、ちゃんとしたキスしてもらうかな」
 再びフラウがボソリと呟くとテイトは勢い良く身を起こし「いいから、さっさと寝ろ!」と怒鳴った。
「クックックッ」
 フラウの背中が忍び笑いで小刻みに揺れている。
 テイトはフラウの背中めがけて軽くザイフォンを放った。
「イテッ!やりやがたなこのクソガキ」
「煩い!フラウがさっさと寝ないからだろ!」
「だからって、ザイフォン放すか?」
「うるさ〜い!!!!」
 突然の子供の声に二人は固まった。
「カ、ペラ?」
 二人にカツを入れたカペラはスーと静かな寝息を立てて眠っている。
「寝言か?」
 フラウが関心した様子で訊ねた。
「ああ、そうみたいだ」
「ハハッ!」
 二人は同時に噴出した。
 ひとしきり笑うと思い出したかのように再び罵り合った。
 そんなやり取りを繰り返し、二人はようやく眠りについた。
 長い夜も明けようとしている頃に…




Fin