夢の中の貴方を思う
 乾く。
 誰かこの渇きを消してくれ。
 多くの魂を喰らったところでこの渇きは治まらない。
 誰か…この柵から自由にしてくれないか?

 夕暮れ時に賑わった酒場も深夜を回ればシンと静まり返り、どんな酔っ払いでも時間になると大人しく家路に着く。出歩くものは誰も居ない。
「物騒な世の中になったもんだな」
 フラウは上着の襟を立てるととても人間の脚力とは思えない身のこなしで建物の屋上へとジャンプした。
 人の欲からなるコールはこのところ増える一方だが汚染された魂を救えるのは僅かでしかない。
 フラウは心の全てを侵食され救うことのできない魂を喰らう。

「ったく、さっきのはことの他マズかったな…」
 口の端に残った血を拭うと何事も無かったかのように平然とテイトたちが眠る部屋の窓をくぐった。
 月明かりが差し込む部屋を見渡しテイトとカペラが眠るベッドへと近付く。
「ぷっ」
 フラウは思わず噴出した。カペラがテイトにヘッドロックされ身動きがとれず「うんうん」と魘されている。
「カペラ、苦しくないか?」
 そっと、カペラを揺り起こし声をかける。
 カペラは寝ぼけながらも目で苦しいと訴えた。
「おいで」
 フラウはカペラにからんだテイトの腕を外すとカペラを抱き上げ居間のソファーへ降ろした。
 上掛けをかけてやり「ここならゆっくり眠れるぞ」とニヤリと笑うとカペラもニコッと頷いた。
「怖くないか?」
「うん。へーき」
「ミカゲ」
 カペラにくっついてきたミカゲに声をかける。
「カペラと一緒にいてやってくれ」
 上掛けの端を軽くあげて言うとミカゲは素直に中へと潜り込んだ。
「おやすみ。カペラ」
 カペラはフラウの言葉に笑顔で返し重たそうな瞼を閉じた。

「まったく、寝相の悪いクソガキだぜ」
 寝室へと戻ったフラウはテイトを見下ろし呟いた。
 テイトは眉間に皺を寄せ腕をバタつかせている。
「いったいどんな夢を見てんだよ」
 フラウはニヤリと笑うとテイトの胸に手を当てた。
 テイトの夢はまさにミカゲが消えていくシーンへと差し掛かったところだった。
「また、ミカゲか…」
 フラウの掌を通し思念が移ったのか、ミカゲの残像がフラウと差し変わった。
「お、オレ様登場」
 フラウはテイトの反応を密かに期待して笑みを浮かべた。
…なんで、ミカゲと変わるんだとかどつかれそうだな…テイトの悔しそうな顔を想像し苦笑する。
「フラウ…」
「!!」
 テイトの悲しげな声がフラウの頭を突き抜けた。
「だめ、フラウ…行かないで…」
 テイトは消えて行くフラウの影を形振り構わず泣きながら追いかける。
「独りにするな…フラウ…」
「テイト!」
 フラウはテイトから手を離すと強く抱きしめた。


「テイト、テイト、テイト…」
 眠ったままのテイトを抱き起こし、回した腕に一層力が加わる。
 ギュッと抱きしめるとそっと耳元に囁いた。
「たとえ天界の長がオレとオマエを引き離そうともオレはオマエを離さない。テイト、オマエはオレのだ。誰にも渡さねぇ。」
 ゆっくりとテイトの瞳が開かれる。
「フラウ?」
 見開かれた瞳がフラウを見つめる。今にも零れそうな涙を溜めて自分を見つめる瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えた。
「テイト」
 完全に夢から覚醒していないテイトを強く抱きしめた。

 ああ、オレの乾きを潤す魂はオマエだ。
 ずっと一緒だテイト。
 フラウの心の呟きに応えるようにテイトの腕が腰に回されギュッと抱きしめてくる。
 フラウは満足そうに目を細め笑みを浮かべた。
 テイト…オマエを愛おしく思う



Fin