夢の中で貴方を思う
※このSSにはスペシャルなイメージイラストがあります。下の方の【Image】をクリックして下さい。


 真っ暗な深い闇の中、ぽつんと淡く光る影が現れた。優しい光を放つそれは次第に人の形となりミカゲになる。
「また、いつもの夢か」
 テイトはこの夢を幾度となく見ている。夢の中でミカゲはテイトに微笑むが話しかけてはこない。ただそこにいて暖かくテイト見つめるだけだ。夢の終わりにミカゲはテイトを包み込むと再び光となって消えていく。
「そんなにすぐに消えないでたまにはオレの話を聞いていけ!」
 夢と解っていながら、テイトは光に呟いた。ミカゲは返事をするはずもなく、ただ優しく微笑んだ。
「ずっと相談したかったんだ」
 テイトも光に微笑むと胸のうちを告白するように話はじめた。
「フ、フラウのことなんだけど…、別にたいした事じゃないんだ…」
 夢の中だと自覚はあるのにテイトは思わず赤面してしまう。
「ミカゲと同じように大事だと思うのにダチとは違う気がするんだ」
 スッゲードキドキするし…と心の中で呟くが夢の中だから関係無い。
「フラウは態度悪いし、人の事ガキ扱いするし…人として問題ありすぎるってか人間じゃねーし…アイツ、生きてないんだ。それならオマエと一緒だな。ミカゲ」
 テイトは自分の言った言葉に苦笑いを浮かべる。
「お調子者だけどあれで結構頼りになるんだぜ」
 ミカゲは相変わらず微笑むだけだがテイトの話を真剣に聞いているように見えた。
「優しいんだ。ホントは。自分のことより他人の事ばかり気にして…どきどき辛そうな笑みを浮かべてオレを見るんだ。オレはフラウを悲しませてるのが自分だって思うと辛くて…」
 微笑むミカゲが徐々に薄れていく。夢も終わりか…そう思ったがだんだんと薄れていくミカゲにもっと多くの事を聞いて欲しくてテイトは語り続けた。
「ミカゲ…オレ、オレ…もっと、オマエと話したい。行くなミカゲ!」
 もはや夢だということを忘れてテイトは叫んだ。
 腕を広げてミカゲを抱きしめようとするが腕は空を切る。
 次の瞬間、ミカゲがフラウに変化した。
「フラウ?」
 そこには時々見せる辛そうな笑顔のフラウが浮かんでいた。
「なんで、いっつもそんな顔すんだよ!」
 ミカゲのように薄れ行くフラウに必死に呼びかける。
「行くな、フラウ…オレを一人にするな…」
 フラウを象った光は一つ一つ光の粒へと変化していく。
「だめ、フラウ…頼む、行かないで…」
 テイトは必死に光の粒を掻き集めるが指の間からすり抜けてしまう。それでもテイトは目に涙を溜め光を追う。
「フラウ!」
 大粒の涙が頬を伝い流れ落ちた。
「テイト!」



「テイト!」
 自分を呼ぶ声にテイトは目を開けた。
 大きくがっしりとした腕に強く抱きしめられ、一瞬、自分がどこにいるのか、誰の腕の中なのか理解するのに数秒かかった。
「フラウ?」
「ああ、大丈夫かテイト?」
「オレ、夢見てた…」
 涙が頬を流れている。オレ、ホントに泣いてたんだな…そんな事を思いながらフラウの背中に腕を回した。
 良かった。フラウはここにいる…フラウの存在を確認するかのように回した腕にギュッと力を入れる。
「オレはどこにも、行かねーよ。クソガキ」
 フラウの掌は泣く子をあやすように優しくテイトの頭を撫でる。
「怖い夢でも見たか?オマエでも泣くことあんだな…」
「違う、泣いてない!」
 思わずフラウの腕を払いのけ服の袖で目を擦るとフラウを睨み付けた。
「目が真っ赤だぜ」
 フラウがニヤリと笑って言うとテイトはなおも「違う!」と否定してフラウに掴みかかろうとした。
「わかった、わかった。まったく…オマエはホントに可愛いねえ〜」
 そういうと膨れっ面のテイトの顔にフラウは顔を近づけ唇を重ねた。
「!!!…な、何する」
「怖い夢を見ないおまじないだ。これでゆっくり眠れるだろ」
「そ、そんなおまじない聞いたことない!」
「そーかー?ま、気にするな、さっさと眠っちまえ!」
「気にするなって!オマエ、今、オレにキ、キ…」
「キ…なんだ?何ならそれ以上のこともしてやろうか?」
 フラウが不敵な微笑を浮かべるとテイトはこれ以上は敵わないと察して布団に潜った。
「もう、いい、寝る」
 布団の中でテイトの鼓動が響いている。
 テイトは気を落ち着かせようと深呼吸をした。
 確かに怖い夢は見なさそうだ。
 なぜなら、眠るどころじゃないから…


Fin


Image
※上記SSのイメージで早瀬様にイラストを描いていただきました。