※兄弟パラレルシリーズ。このシリーズを未読のお客様、ぜひ、
夏の憂鬱からお読みください。
サマーバケーション2014(仮)
テイトは高校三年生。俗に言う受験生。そして夏休みは受験生にとっては大事な、というか勝負の時である。ここで力を付けた者が後の勝者といっても過言ではない。とはいっても、テイトは既に大学は零七大学と決めており、今の成績なら余裕で入学できるだろう。その辺り、他の受験生よりお気楽な夏休みといえるが受験勉強を疎かにするわけにはいかない。成績が下ればそうも言ってられないのだ。
都会の浮ついた環境より落ち着いた田舎の方が集中できる。そう言って、今年もテイトはカペラを連れてこの別荘に来た。なのに……
ジリジリジリジリ
けたたましい蝉の鳴き声が熱風とともに窓から入ってきた。この暑さに加えてこの騒音。流石のテイトも集中力が切れかけた。
集中! 集中!
テイトは気合入れに自分の頬を軽く叩くと机に向き直った。参考書を目で追いマーカーで線を引く。時折涼しい風が吹くと視線は参考書を離れ窓の外に向けられた。
「だめだ。ちっとも集中できないや」
集中できない理由はもう一つある。
今日はフラウも別荘に来る予定になっていた。
テイトは幾日もフラウの顔を見ていない。フラウは今年から院生になり、研究と称しての泊り込みが多くなった。ようやく休みが取れたと電話では言っていたが、研究次第で予定変更を余儀なくされるにちがいない。
「はぁ〜」
テイトは深い溜息を吐くと体を後ろに反らして畳へと寝転んだ。
フラウの腕と大きな掌が無性に恋しい。フラウの掌が自分の頭をクシャっと……
「うわぁああああ」
テイトは想像して赤面して悲鳴を上げた。
「なにしてるのテイト兄ちゃん?」
襖を開け放した廊下にカペラが立って不審な動きをする自分を見下ろしてる。
「カ、カペラ」
「麦茶持ってきた」
「あ、ありがとう」
「大丈夫? 勉強のし過ぎじゃない?」
「そんなことないけど……」
テイトはカペラから受け取った麦茶を飲み干すと「冷たくて美味しい」とカペラに笑顔を見せた。
「あのさ」
カペラはテイトの様子を窺うように切り出した。
「何?」
「夏休みの宿題、見て欲しいんだけど」
「いいよ」
「やった!」
宿題を見るという了承を得ただけでガッツポーズを決めたカペラにもしやと思ったテイトはすかさず「手伝わないよ」と付け加えた。
「ちぇ〜」
案の定、手付かずの宿題が山のようにあるらしい。カペラは唇を尖らして子供らしく不貞腐れたポーズを決めた。その様子が愛らしくて頬が緩む。
「フラウ兄ちゃんが来たら手伝ってもらうもん」
フラウが来たらそれこそ二人して遊び呆けて宿題どころじゃなくなるだろ? テイトは夏休み終了間近に慌てふためくカペラとフラウを想像して噴出した。そうならないようにしっかり手綱を締めないと。
ブロロロロロロ。キキーッ。
フラウのおんぼろミニのエンジン音が別荘の駐車場で止まる音がした。それと、もう一台、聞きなれないエンジン音。
「フラウ兄ちゃん!」
カペラがすぐさま玄関を目指して駆け出した。テイトも逸る気持ちを抑えつつフラウを出迎えに玄関へ向かった。
「ただいま〜ぶわっ!?」
「フラウ兄ちゃん、お帰り〜!!!」
フラウが飛びついてきたカペラを慌てて抱きとめる。まだまだ子供といってもそれなりに育ってきたカペラを抱きかかえてフラウは苦笑した。
「ひさしぶり」
気持ちの昂りを悟られないようにテイトは素っ気無い態度でフラウを出迎える。久しぶりに会うと決まって身構えてしまうテイトにフラウは「よお」と声をかけるとテイトも来るか?と、腕を広げた。
そんなフラウを無視して後方の客人の顔を確認してテイトは叫んだ。
「ミカゲ! ハクレン!」
「テイト」
スポーツバッグを担いだミカゲとハクレン、その更に後方に車の荷台から荷物を取り出すカストルとラブラドールの姿が。
「カストルさん! ラブラドールさん!」
「テイト君久しぶり」
二人は車のドアを閉めると軽く片手を挙げた。テイトは彼らに駆け寄るとフラウにしがみついていたカペラもフラウから離れて輪に加わった。
夏休みも半ばを過ぎ、寂しさすら覚えるこの時期の訪問にテイトの心は弾んだ。そんなテイトと裏腹に、フラウはテイトとテイトを囲む面々に恨めしい視線を送った。
自分が連れてきたとはいえ、テイトがフラウの腕を恋しいと想うのと同様、フラウもまたテイトを掻き抱きたいと願っていた。それも暫くはお預けとなった。
続く
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