行く年来る年
※兄弟パラレルシリーズで「行く年来る年」編です。フラウ視点でいろいろと……


 年越しは親とカペラは南国にでも行って、オレはテイトと二人きりでしっぽりと……
 なんてことにならないだろうかと僅かながらも期待したのだが「年越しは家族で過ごす決まりでしょ!」(そんな決まり、何時作った?)のお袋の一言で、結局コタツを囲んで家族一同揃ってテレビを見ながらミカンなんか食っている。
 親父はテレビをW画面にしてザッピング、その隣に座ったテイトは少年漫画誌をパラパラと捲っている。オレはといえばそんなテイトを盗み見ては溜息を漏らす。
 せっかくの冬休み、一分でも多くテイトと過ごしたいのだが相変わらずガードが固い。何かいい案は無いかと頭を捻っていて思いついた。そうだ、初詣という手があるじゃないかっ!
 テレビ画面が雪景色を映し出した頃「ハイ、年越し蕎麦よ〜」と、お袋とオタケさんが台所から蕎麦とてんぷらの乗った大皿をお盆に載せて入ってきた。
 「年越し蕎麦は年越しと共に頂きましょう」とか言うから夕食に食べたご馳走がこなれていないにも関わらず大量のてんぷら蕎麦を食べる羽目になった。
 オレの胡坐の上ですやすやと眠っているカペラを起こして蕎麦を食わすつもりか?
「カペラは寝かしといていいわよ」
 お袋がオレの腕からカペラを抱き上げるとソファに連れて行き上掛けをかけた。
 正直オレも横になりてー。と、人知れず溜息を突いた横でテイトが「母さん、キスの天ぷら取って」とめんつゆの椀を差し出した。
「よく食えるな?テイト……」
 隣で呆然とテイトの口に運ばれていくキスの天ぷらを見つめた。
「育ち盛りだから」
 そう言って、テイトは海老の天ぷらに手を伸ばした。
「横に伸びるなよ」
「イテっ」
 ボソッと呟くとコタツの中で足を蹴られた。
「なあ、テイト、食ったら腹ごなしに初詣行こうぜ」
「やだよ。外寒いし」
 あまり乗り気でないテイトにオレはがっくりと肩を落とす。いい案だと思ったのだがどうやら失敗の兆しだ。
 と思ったのだが「あら、いいじゃない、テイト、フラウと行って来なさい。小遣いあげるから」と、お袋が加勢。グッジョブだぜ!お袋!
 マイペースかつ強引なお袋は出がけ際「縁起物、何か買ってきてちょうだい」とテイトに金を握らせると笑顔でオレ達を送り出した。すっげー高いヤツ買って帰るからな!お袋!



「テイト、寒くないか?」
 神社の賽銭箱へと続く長蛇の列は一向に前へ進まない。動かずじっとしていると思っているよりもずっと体は冷えるものだ。
「大丈夫……ってか、このジャケットでかいよ」
 夜は冷えるからとテイトはオレのお下がりのダウンジャケットを着ているのだが裾やら袖やらが若干余り気味だ。
「それ、オレの中学の時に着てたヤツだぞ」
「……」
 テイトに身長のことは禁句だった。オレとしてはテイトには変わらず今のままでいて欲しいのだが。
「ミカゲとハクレンは元気か?」
「フラウ、それさっきも聞いた」
「そうだったっけ?」
 何とか会話で盛り上げようとしたのだが会話自体が続かない。
 オレはテイトと二人で居られればそれで十分満足だが、テイトはどうだろうか? 夏以降、オレ達の中が進展したかと言うとそうでもない。
 テイトは相変わらず甘えベタというか素直じゃないというか、そこがまた可愛いところでもあるのだが……
「フラウ、お賽銭」
 ボーっと瞑想しているうちに自分達の番が来たようだ。テイトに即され、慌てて賽銭を投げ入れる。どうかテイトと……いやいや、それはここでお願いするには相応しくないだろう。慌てて家内安全、商売繁盛と唱えてパンパンと二拍一礼した。


 テイトと一緒に境内を回り、無料で配られている甘酒を飲んで神社を後にした。
「フラウ、どこか調子悪いのか?」
テイトがそうポツリと呟いた。手には出店で買った縁起物の入った袋をぶら下げている。
「や、別にどこもなんともないが……」
 少し遠回りをしようと選んで歩いている道は、人気も無く、音と言えば二人の足音が建ち並ぶビルの壁に反響するぐらいだ。
「なんか、ボーっとしてるし」
 それはオマエのことを考えてるからで、現に今も他に寄るところはないかと、できればロマンチックなビュースポットがあればベストだ!なんて事を考え巡らせているからだ。
「もう、オレに飽きた?」
 小さい声で呟かれた言葉にオレは耳を疑った?
 何て言った?オイ?飽きただと?そんなわけあるか!こっちは飽きるどころか飢えてるってのっ!
 バカか?オマエ?と言おうとして振り返るとテイトはオレの袖を抓んで俯いている。
 バカなのはオレか! 邪な思いに駆られて一緒にいたテイトを知らないうちに不安にさせていた。
 コイツの方がオレの態度の一つ一つに気を尖らせているに違いない。
 袖を掴んだテイトの手を握ると自分の懐へ引き寄せた。
「フラウ、離せよ」
「ダメだ」
「だって、外だぞ」
「構わない」
 押し返そうとするテイトを一層強く抱きしめる。
「不安にさせたか?」
「別に……」
 そう言うテイトの顔は下を向いたままだ。
「悪かったな」
 優しく頭を撫でてやると漸く「ん」と小さく頷いた。
「帰るか?」
 いつまでもテイトを抱きしめていたいのだがこれでは歩けない。渋々テイトを開放したが手は繋いだままだ。
「すっかり冷えちまったな」
「ったく、誰だよ、初詣行くとか言い出したヤツは」
 テイトは繋いだ手を離すどころかギュッと握るとオレを引っ張って歩き出した。
「帰ったら続きしてもいいのか?」
 ちょっと期待して聞いてみる。
「な、何のだよ?」
 前を歩くテイトの顔は見えないが真っ赤な顔を勝手に想像して顔が緩む。
 帰ったら……そうだな、とりあえず冷えたから風呂にでも浸かってって、べつにやましいことじゃない、兄弟だし男同士だし普通だろ? そして部屋に入ったら……
「フラウ!」
 テイトの呼びかけに妄想を中断。
「なんだ?」
「肝心なことを言うの忘れてた!」
 何を今更、オマエのオレを思う気持ちは言わずとも十分伝わってるって!



「あけましておめでとう!フラウ」
「……」
 あ、そうね。それね。


「明けましておめでとう。テイト」






END




※あ、オチわかってました? すみません。ありがちなネタで〜。

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