夏風邪
「ん……」
 あまりの暑さに寝苦しくて目を覚ますと心配そうに覗き込むフラウの顔があった。
「テイト、苦しくないか?」
「ん、熱い……カペラは」
「母屋で寝てる」
 不覚にも夏風邪をひいてしまった。離れの部屋で横になるオレをフラウが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。カペラは風邪が感染らないように部屋を変えたのだろう、フラウが冷たいタオルを額に乗せてくれた。
「汗かいたろ? 着替えるか?」
「うん」
 体中の汗を拭い洗濯し立ての浴衣に袖を通す。日はとうに暮れたのか、枕元のライトがうっすらと辺りを照らしている。
「今、何時?」
「午前2時過ぎ」
「ごめん……フラウも寝て」
「ああ、寝るよ」
 フラウは「寝るよ」と言いながら抱きしめてきた。
「……風邪、感染るよ」
 フラウまで風邪ひいたら大変だ。フラウにはオレの代わりにこの広い屋敷の掃除してもらわないと……
 ダメだって言ってるのにフラウの唇が自分のに重なった。
「風邪、感染るって」
 押し返す腕に力は入らない。
「感染ってもいいんだって」
 結局引き寄せられフラウの懐に戻ってしまう。
 再び唇が重なった。
「だから感染る」
「風邪っぴきは素直に甘えろ」
 ぱふっ。
 その一言でフラウの胸に頭を押し付けた。やんわりと肩を抱く腕の重みが心地良くて再び眠気が襲ってきた。
 このまま眠ったらフラウが困る。きっと次にオレが目を覚ますまでこのままだ……
「気にするなテイト、一緒に寝よ……もう、眠ぃ」
 フラウはオレを抱いたまま横になった。
「ん」
 オレもフラウに抱きしめられたまま目を閉じた。
 普段なら必死に抵抗したり逃げ出したりしているのに、素直で居られる自分が不思議だ。
 顔も熱のせいで既に真っ赤だから見られても平気だもんな……
 そんなことをぼんやりと考えているうちに真っ青な夏の空をフラウと飛んでいく夢を見た。羽の付いたバイクみたいな乗り物……へんな夢。でも、熱が出る度に見ているのを思い出した。そうだ、子供の頃から見ている夢だ。前世の記憶なのかな……ラブラドールさんに感化されてる?



 そして1時間後……
 余りの暑さに二人して目を覚ました。


「熱いっ!」



END


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