海風
「ここに居たのか」
テイトは庭の奥の木の陰にフラウの背中を見つけ、駆け寄った。
「カペラが寝てる」
フラウが口に人差し指を当てて囁いた。見るとフラウに寄りかかったカペラが気持ち良さそうに眠っていた。
「二人とも居ないと思ったら……」
すやすやと眠るカペラの寝顔にテイトの顔が綻ぶ。
フラウの隣に腰を降ろすとテイトもフラウに寄りかかった。
海を一望できる場所におそらく敷地内で一番大きい楡の木がほどよい木陰を作っている。
テイトも一番お気に入りの場所だ。
「明日、帰るんだろ?」
そう言ってフラウは淋しそうに微笑んだ。
「ああ」
「週に一度は帰って来いよ……カペラが喜ぶ」
カペラが? フラウは嬉しくないのか?
フラウが自分をかまうのは単なる夏の間の暇つぶしなんじゃないかと、もちろんそんなことは無いと解っていてもチラリと思考に入り込みテイトを不安にさせる。
夏休みが終わればテイトも通常の生活に戻り、それなりに充実した日々を送るだろう。勉強と部活に追われ、フラウの事を忘れてしまうかもしれない。同じようにフラウも……そう考えると悲しくなる。当然彼女だっているだろうし、都会で残り僅かな学生生活をエンジョイするうちにテイトの事なんて綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。
「不安だ!」
「え?」
自分が思っていたことを突然フラウが呟いた。
「オマエ、学校に戻ったらぜったいオレの事、忘れるだろ? ミカゲやハクレンと結構楽しそうだったもんな。ああ、クソっ!」
「そんな事ない……フラウこそ……」
テイトは一層淋しさが込み上げ泣きそうになる。言葉が続かない。
「オレは忘れねーよ。毎日、ウザがられても寮に電話してやる。オマエが家に帰って来ないなら寮に押しかけるからな。覚悟しとけっ」
フラウはテイトに誓いを立てるように強く言い放った。
「うん」
結局、我慢しきれず大粒の涙が零れた。泣き顔を見られないように膝をかかえて顔を伏せるとフラウがテイトの頭を抱き寄せた。優しく包み込むように。テイトが欲しがったフラウの温もりは子供の頃のとは全く違っていた。すっかり大人になった腕は筋肉が付いて硬くてゴツゴツしてる。でも、とても心地いい。
気持ちのいい海風がテイトの頬を撫でていく。
涙が乾く頃にはカペラも目を覚ますだろう。そしたら、マツさんにスイカを切ってもらって、バーベキューの用意して、花火して……
夢のような夏が……終わろうとしている。
END
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