夏祭り
「ミカゲ兄ちゃん、金魚すくいやろ〜」
「おおよ!」
 カペラがミカゲの手を取り人混みの中へとかけて行った。
「すっかり仲良しコンビだな。あの二人は」
「ああ」
 テイトは相変わらずの無愛想で返事をした。
「最愛の弟を取られてヤキモチか?テイト」
「そ、そんなんじゃねぇ」
 そんなんじゃ……コイツと二人きりになるのが嫌なだけだ……ミカゲのヤツ、オレを置いて行きやがって!
 テイトは心の中で自分を置いていったミカゲとカペラに毒づいた。
 今日は裏の神社で夏祭りがあるからとカペラに言われ、夕涼みがてらでかけて来たのだが想像以上の賑わいだ。
 ハクレンやカストル達ともはぐれ、神社の境内に着いた時にはテイトはフラウと二人きりになってしまった。
 チャリン
 とりあえず賽銭箱に小銭を放るとがらんがらんと鈴緒を振った。
「この後どおする?」
 のんびりした口調で言うとフラウは石段に腰を降ろしテイトの手を引いた。
「携帯持ってんだろ? カストルさん達と合流すれば」
「わざわざかけなくても、すぐに見つかるさ」
「それじゃ、カペラ達のいる金魚すくいのとこ行こ」
「テイト」
 フラウはテイトの腕を強引に引っ張ると隣に座らせた。
「な、何?」
 先ほどからフラウはしきりに笑顔を浮かべている。
「やっと二人きりになれたと思っっぶっ」
 テイトは最後まで言わせずフラウの口を手で塞いだ。
「何す……」
「あんま、恥ずかしいこと言うな」
 テイトは耳まで真っ赤にしている自分を意識してフラウから見えないよう顔を背けた。
 昼間のフラウの告白は冗談なんかじゃなかったと今では十分解っている。その上、自分がフラウをどう思っているのかも察しているようだった。テイトがどんなにフラウを邪険にしても笑顔…というかニヤケ顔が絶えることはなかった。
「あ、テイト、綿菓子、食べるか?」
 フラウがまたまた嬉しそうに言った。
 子供の頃、テイトがここの屋台でお父さんに買ってとせがんだのを思い出したのだろう。
 テイトは呆れた溜息を突いた。
「もう、綿菓子買って喜ぶ歳でもないよ」
「じゃ、ヤキソバか? よし、じゃ買いに行こう」
 フラウは勢い良く立ち上がるとテイトに手を差し伸べた。
「何?」
「手!」
「繋ぐのかよ」
「繋いでなきゃはぐれるだろ?」
 フラウが強引にテイトの手を掴もうとしたところで背後から声をかけられた。
「フラウ兄ちゃん、見て〜! ミカゲ兄ちゃんとこんなに金魚取った!」
「……うっ」
「ぷっ」
 フラウの苦虫を潰したような顔にテイトが思わず噴出した。
「ああ、いたいた、フラウー、向こうに酒が飲める所がありましたよ」
 カストルもやっと見つけたと人混みを掻き分け手を振っている。
 フラウは残念そうにテイトへ伸ばした手を引っ込めるとカペラの頭を撫でてカストルに「今、行く」と返事を返した。
「フラウ」
 テイトは渋々と歩き出したフラウの背中に声をかけた。
「綿菓子買って!」
 テイトの一言で恨めしそうな顔をしていたフラウは満足げな笑みを浮かべると「了解」と唇が動いた。
「何、何、綿菓子、僕にも買って」
 カペラも嬉しそうにフラウにせがんだ。
「わかった、わかった。みんなの分、買ってやる!」
「オレはいいっすよ〜」
「なーに、ミカゲ、遠慮するな〜」
 テイトはフラウが和の中心になるのをぼんやりと見ていた。その容姿からどこへ行っても目立存在。今も行き交う人の視線を集めている。そんなが男が自分を好きだと言った。
「テイト置いてくぞ!」
 フラウの声に我に返る。
「待って」
 機会が合ったら手を繋いでやるか……そう心の中で呟くとフラウの背中を追いかけた。



END


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