※注!ヒュウコナだかコナヒュウだか曖昧な感じのヒュウコナです……


君も薔薇も……

 チームアヤナミのオフィスは今日も皆黙々と業務をこなしていた。
 ……ただ、一角を除いては……
「少佐! 私の仕事の妨害は止めていい加減自分の仕事に専念してください!」
「妨害だなんて、酷いじゃないか! オレはコナツのフォローをしてるのに」
「こ、れ、の、ど、こ、が、フォ、ロー、な、ん、で、す、かっ!!!!!」
 コナツにそう言われ人差し指の動きを止めた。
「仕事で疲れているんだろコナツ? 眉間の皺を取ってやろうと思ったのにちっとも消えやしない」
 ヒュウガはコナツの眉間の皺を伸ばそうと指でグリグリと撫でていたのだ。
「貴方のせいで消えないんですよ! もう、手をどけてください! それと書類の上に座らない!」
 このやりとりも毎度の事で見慣れているのか回りの者は皆、知らん顔だ。むしろヒュウガに絡まれるのを恐れて、触らぬ神になんとやらで見て見ぬ振りをしてるのかもしれない。コナツもヒュウガの奇行に一々反応していては身が持たないと我慢して無視を決め込んだが数分と持たなかった。
 コナツの本気の怒りを感じ取ったヒュウガは大人しく自分のデスクへ向かったが、そこへタイミング良く業務終了のベルがオフィスに鳴り響いた。
「おっと! もうこんな時間か……真面目に業務をこなすつもりが、いや残念」
 そう言うとヒュウガはデスクに向かい掛けた体を反転させた。
「何、普通に帰ろうとしてんですかっ! 今日はこれから大事なミーティングですよっ!」
 コナツはヒュウガの左手首をむんずと掴むと帰すまいと睨み上げた。
「やっぱ、行かないとダメなの?」
「当然です」
 拗ねた口調のヒュウガの台詞をコナツはピシャリと跳ね返すとそのままアヤナミの部屋へと消えていった。他の幹部も笑いながら二人の後へ続き、幹部の居なくなったオフィスはどこからともなくホッと溜息が漏れ、皆、再び業務を再開した。



「おお、コナツ! 今夜は星が綺麗だぞ〜!」
 会議を終えて各々の部屋へと戻る途中、ヒュウガが渡り廊下の窓から空を見上げてコナツを呼び止めた。
「そうだ、コナツ。夜の散歩と洒落込もう」
「今からですか?」
「そう、今から」
 これは暗に誘っているのではない。命令だ。コナツはヒュウガの後に付いて外へ出た。暫く夜空を眺めながら手入れの行き届いた庭園を漫ろ歩く。
「コナツ。どうしたの?怖い顔して」
「別に」
 会議はコナツにとって事の外重い内容だった。今後、課される任務を思うと気が重くなると同時に不安が募る。これまでだって命令が下るたびに胃の奥が締め付けられる感じはあったが不安より期待が上回った。だが今度ばかりは期待より不安が先にたった。
 自分の命が消えることを恐れてはいない。軍に入隊した時点で覚悟はできてる。
 ただ……この人を失ったら……

「星も綺麗だけど見事な薔薇だねぇ」
 ヒュウガは暗闇の中でもその存在を露にする純白の薔薇を手折ると花弁に唇を押し当てた。
「コナツ」
 コナツはおいでおいでと手招きされ、ヒュウガに近付いた。ヒュウガの掌がコナツの額に触れると手折った薔薇がそっと髪に添えられた。
「似合うねぇ薔薇が」
 コナツの姿にヒュウガは満足そうに微笑むと人差し指でコナツの眉間を撫でた。不安に押し潰されそうなコナツとは対照的に、普段と変わらず飄々としたヒュウガの態度は、逆にコナツの不安を駆り立てる。
「もう、なんですか少佐」
 コナツは咄嗟に苛立った口調で言うとヒュウガの手を払いのけた。
「こうして庭園に居るコナツを見てるとコナツも花に見えてくるよ。ただ、眉間の皺は頂けないな……」
 そう言ってヒュウガはクスリと笑うとコナツの唇に自分の唇を押し当てた。手折った薔薇にくちづけた時の様にそれは自然で優雅だ。
「少佐……」
「コナツ……眉間の皺」
「眉間の皺、皺、って、いったい誰のせいでできると思ってんですか!」
「オレのせい?」
「そうですよ! 全部少佐のせいですよ!」
「じゃあ、やっぱり責任を取ってオレが伸ばしてあげないとだねぇ」
「ああ、もう、ぐりぐりしないで下さい」
 そう言って再び伸ばされたヒュウガの掌をコナツは掴むと自分に引き寄せた。その瞬間、バランスを崩して二人して地面に倒れこんだ。互いに庇おうとして抱き合う形で倒れた二人は何も云わず、離れようともしなかった。
「あ!」
 沈黙を破ったのはコナツだった。
 寝転がったままコナツはコートのポケットを探ると包みを取り出した。
「はい、少佐」
「何?コレ?まさか!バレンタインチョコ?コナツがオレに?っつうか、バレンタインデーって先週だよね?」
「渡すの忘れてたんですよ」
 周囲の雰囲気に流され、買ったはいいが、今更バレンタインデーにチョコなんて、と、結局、仕舞い込んで渡せずにいたのだ。
「えー。照れるなー。コナツ、やっぱりオレのこと……」
 ヒュウガはわざとらしい作り笑いを浮かべるとコナツを抱き寄せようとした。その手を交わしてコナツは体を起こした。立ち上がると服についた土ぼこりを払い落とす。
「そういうのやめてください。たんなる日頃の感謝の気持ちです」
「またまた〜。今日ぐらいは自分の気持ちに素直になって」
 そう言ってヒュウガはコナツに手を伸ばした。コナツはその手を掴みヒュウガを起こす。
「……お好きに解釈して結構です」
「じゃあ、コナツから本命チョコを貰ったということにしておこう」
「……」
「ホワイトデー考えておかなきゃだな。何か欲しいモノある?」
「いいですよ、そんなの」
 それより約束して欲しい。
 絶対、死なないってオレを置いて行かないって……
 そう心の中で呟いて、コナツは言葉を飲み込んだ。
「お返しはいいですから、明日はちゃんと仕事してくださいよ」
 そう言ってコナツはヒュウガに微笑んだ。
「お!その表情いいね!」
「また、調子のいい!こんな暗がりで表情なんて解るもんですか!」
「解るよ。暗がり中の薔薇と一緒さ」
 ヒュウガは微笑むと館内へと歩き出した。
「あ!」
 突然、満面の笑みを浮かべてヒュウガがコナツに振り向いた。
「お返しはオレでいいか!?」
 懲りずにこの人は……
 コナツは溜息を零し「結構です!」と答えると再び眉間に皺を寄せた。


end
ハッピーバレンタインのつもりが、ちょびっと切ない話になってしまいました。 そしてヒュウコナお初です。二人の関係は曖昧な感じにしてみましたがどうでしょう……。 付き合ってるのか付き合って無いのか、でも、体の関係はある。みたいなのが好きです。

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