※テイト視点。※同級生篇


 どたどたと廊下を歩く音がして「テイト、アイス食うか?」とフラウがアイスを手に部屋に入ってきた。
 いつもならノックをしろと言いたくなるところだが、節電の為、冷房は使われず、寮全体が窓も扉も全開だ。風がたまに流れ込むがそれも決して涼しいとは言えず、生ぬるい空気が頬を撫でるといったところ。
「アイス、アイス」
 頭上から降ってくる声にテイトは顔を上げた。


アイスキャンディー


 学校は夏休みに入って既に3日経っていた。休みに入ると同時に寮生の大半は帰省したが部活や講習を受ける生徒が半分程寮に残っていた。部活で残るというフラウに付き合って、というわけではないが家に帰っても特にすることが無い為、しかたなく寮に数日残ることにした。
 アイス、アイス、と口ずさみながら近付いてきたフラウはオレの手元を覗き込むと「うっ」と、声を零した。
「なんだよ」
「いや、ありえねぇ色使いだなと思って」
「煩い」
 そんなことはこのオレが一番良くわかってる。
 寮に居る間に夏休みの課題を少しでも片付けておこうと、まずは美術の課題に着手したところだった。好きな詩篇をイメージして描きなさいと出された課題は自分には合っていたようで、直に頭の中にイメージが膨らんだ。意気揚々と白い画用紙に色を乗せるものの思い通りの色ではなかった。あーでもないこうでもないと着色していくうちにイメージとかけ離れた絵になってしまったのだ。
「いや、オマエ、それは絵とは言えんだろう」
「煩いなぁ。あっち行けよ」
 からかわれるならまだしも哀れむような視線を向けられて一層腹が立つ。
「アイスは」
 要らないのか?と目で言うと手にしたアイスを左右に振った。
「喰う」
 フラウからアイスを受け取ろうと伸ばしたその時、両手が絵の具で汚れていたことに気が付いた。
「洗ってくる」
「あ、テイト」
 机から離れようとするテイトをフラウが押し戻した。
「食わしてやるよ」
 そういってビリッと袋を破ると中のアイスを引き出した。
「アーンしてみ」
 言われるがまま口を開けると冷たいアイスキャンディーの先が舌にあたった。
「冷た」
 冷たさに顔をしかめて口を離す。
「テイト、解けてる。早く舐めないと垂れるぞ」
 アイスの先を下に向けられ、垂れてくるアイスを慌てて舐め取る。
「ん……」
 冷たくて甘いミルクを嚥下した。
「甘っ」
「美味いだろ? あ、歯立てるなよ」
「なんで」
「いいから、舐めて」
 椅子に座ってアイスを舐めているとアイスを持って見下ろしているフラウと目が合った。顔が紅潮して目つきが少し、いや、かなり怪しい。
「なんだよ?」
「なんでもねーよ。いいから舐めてろ」
 フラウが何を想像しているか察しが付いた。アホか。その妄想を今直ぐ断ち切ってやる。
 テイトはアイスキャンディーに歯を当てるとアイスの先を食いちぎった。
「あっ」
 フラウが素っ頓狂な声を上げて眉を顰めた。
「やっべ、今のでちょっと縮んだ」
「ぷっ、ばかじゃねーの」
 大事なところを手で抑え、困った顔のフラウがおかしくてゲラゲラ笑った。
 一頻り腹を抱えて笑うとフラウのもう片方の手からアイスを奪い取る。
 考えてみたら柄が付いているのだから汚れた手でも食べられるじゃないか。
 残ったアイスも豪快にシャクシャクと食べるテイトにフラウが体を寄せてきた。
「なんだよ。暑いだろ」
 ムッとするテイトに構わずフラウは顔を近づけると唇を重ねた。
「ん、ばか、離せ」
「冷たいな」
「も、ばか」
 口中を舐め回されて息が上がる。
「窓もドアも開いてんだぞ」
「大丈夫。死角だ」
 そう言って取り合わずフラウの手はするりとTシャツの中へと潜り込んだ。
「やめろって」
 確かに廊下から見える位置ではないが、誰が入って来ないとも限らない。
「誰か来る」
「寮内に誰も居なかったぞ」
「嘘つけ!」
「ははは」
 どうやら本気でどうこうするつもりは無いらしい。「夏休み」と、フラウが耳元でぽつりと呟いた。
「ん?」
「オレの家に寄っていけよ」
「え?」
「家に誰も居ないんだ。2、3日ぐらいいいだろ?」
「う…ん」
「また映画でも見に行こうぜ。今度はテイトの見たいやつを一緒に見てやるよ。プール行ってもいいし、な」
 そう言ってフラウは心底楽しみだという笑顔を見せた。
 誰に気兼ねなくフラウと過ごせる。それはテイトにとっても嬉しい提案だった。普段は気を張って素直に甘えられないテイトだが夏の開放感も伴ってきっと甘いひと時を過ごせるだろう。そんなことを考えてる自分が恥ずかしいと思うが本心だからしかたない。
 部活で日に焼けたフラウは太陽の匂いがする。くんとフラウの胸板に鼻を擦り付けると背中に回された腕に力が入ってさらにギュッと抱きしめられた。
「フラウ……」
「ん」
「暑い……のぼせた」
「わ〜、テイト」
「アイス、もっとアイス食いたい」
 フラウは慌ててテイトを開放すると「買ってくるっ」と部屋を飛び出して行った。
 窓の外でジリジリと鳴くセミの声を聞いて、ふと、昨年の今頃を思い出す。フラウと体を繋げられたけど心の通わないセックスはただ苦しいだけだった。
 心が通じ合った今はこんなにも満たされている。

 不思議だ……

 外はギラギラと太陽が照り付け、茹だるような暑さだ。
 夏は苦手な季節だったのに……現金だな
 ワクワクしている自分に苦笑いする。

 早く、アイス来ないかな

 ソーダ味だとなお嬉しい。そんなことをぼんやりと考えながらフラウの出て行った廊下を見つめた。



end



※今年の夏は暑そうだ〜!!!!!(駄洒落!?)
 ってか、今が暑いんじゃっ。アイス、アイス!
 ちなみに今日はH11.06.30、まだ6月でっせ!