※フラウ視点。※同級生篇
君と同じ空気を吸っているだけで幸せ
「まだ、怒ってんのか?」
不貞腐れた表情のテイトが(といっても大概いつも機嫌が悪いのだが)返事の変わりにギロリと視線を投げてよこした。
「別に映画のラストを見逃したぐらいどうってことないだろ? そもそも、映画始まってすぐに寝てたじゃないか」
映画に行こう、そう言ってテイトを誘って寮からバスで30分ほど離れたショッピングモールへやって来た。テイトはしきりに得体の知れない生き物が出て来る映画を推していたが、これ以上変な妄想壁が付いては困ると、誰が見ても楽しめる無難なアクション映画にした。テイトは文句を言いながらも序盤のアクションシーンは楽しんでいる様子だった。中だるみ感が否めない中盤に差し掛かると集中力が尽きてきたのか次第に船を漕ぎ始め終盤にはオレの肩に凭れ掛かると深い眠りに落ちていた。てっきり映画に興味が無いのかと思っていたらラストだけは見たかったらしい。何故、起こさなかったと怒って言われてもそんなことは何一つ言っていなかったではないか。
映画館を出て隣のファーストフード店で互いにセットメニューを頼むとオープンテラスの席を陣取った。ショッピングモールの中庭を行き交う家族を眺めながらハンバーガーに齧り付く。
「そもそも、フラウが悪いんだからな」
テイトはまだ根に持ってるのかそう呟くと手にしたハンバーガーに齧り付いた。まったくオレに噛み付いて、ハンバーガーに噛み付いて、欲張りだな。オレはニヤニヤ笑うと「オレの性?」と聞き返した。テイトの言いたいことは大体解ってる。テイトが睡魔に負けてしまった原因はオレだ。昨夜もまたテイトを自分のベッドに引きずり込みことに及んでしまったのだから。それでも、優に6時間は寝れたはず。どうやらテイトにはそれでも足りないらしい。
昨夜の事をを思い出したのか真っ赤な顔を隠すように俯いてしまった。確かに、この長閑な空間で想像することではないな。顔を赤くして居心地悪そうに下を向いているテイトが可愛くて思わずテイトの頭にそっと手を伸ばす。
「わぁ! な、何すんだよ」
「いや、別に」
ここが寮だったら抱きしめていたところだ。頭を撫でるぐらい許して欲しい。顔全面で怒りを表現しているテイトにオレは苦笑いを浮かべた。
ハンバーガーの残りの一口を口の中へ放り込むとコーラーで流し込んだ。昼を当に回っているとはいえ歩き疲れた家族やカップルが足休めに立ち寄るのか俄かに人が多くなった。
そろそろ行こうかとテイトを促して席を立つと「あのう」と声をかけられた。声の方へ目を向けると女子高生の二人組が立っていた。空席を求めているのだろうと「どうぞ」と場所を空けると「そうじゃなくって」とクスクスと笑われた。あ、そっち? こういう場での軟派はよくあるが、毎回断るのに苦労する。今日のは一段と手強そうだ。頭に大きな花が三つも付いている。
「何か?」
「これから一緒にカラオケでもどう?」
どう?と言われても、当然のことながら行く気はなく、それよりも初対面でいきなり「どう?」はないだろう。オレが金髪で軽そうに見えるのかもしれないが、金髪は地毛で確かにノリは軽い方だが時と場合による。根は真面目な好青年だ。一応。
「ウチラも二人だし丁度いいよね、ね」
意味が解らねぇ。解らねぇが下手したらテイトが餌食になるかも知れない。オレの後ろで怯えているであろうテイトを確認しようと振り返ると少女達の頭の花に目が釘付けになっていた。ヤバイ、完全に不思議物体=興味対象になっている。それにしても、花が付いているとはいえそれなりに美少女の部類に入る少女達と並んでもテイトの可愛さは遥か上をいっている。廻りの注目の的になりつつあるし、早急にこの場を離れないと。
「ごめんね。オレ達、門限あるから」
オレは適当な嘘を付くとテイトを引っ張って店から離れようとした。
「門限? ナニソレ〜」
「オレ達、男子寮なんだよ、規則が厳しくて、だから、ゴメンね」
やんわりと断っているのだが彼女達には通じないようで「じゃ、携番教えてよ!今度連絡入れるから!」と返された。はっきり言って連絡は要らない。むしろオレとテイトの貴重なラブタイムを返せ。
「携帯は規則で持たない決まりになってて」
いい加減、相手ををするのにうんざりしてきたオレは適当な嘘を吐いた。
「はぁ〜。嘘吐くならもっとましな嘘吐けよ」
女子高生二人組はそう吐き捨てると店を去って行った。廻りを見渡すと事の成り行きを見守っていたらしい客が一斉に食事を再開した。この場の空気を乱したような罪悪感が残り「お騒がせしました」と頭を下げるとどこからともなく拍手が沸いた。いや、別にそんなつもりじゃ。テイトを外へと促してイソイソとその場を離れる。まったく、テイトとの初デートだというのに飛んだ災難だった。
モールの中を当ても無く歩いているとテイトがポツリと呟いた。
「やっぱり」
「ん?」
「フラウって、もてるんだな」
「そんなことねーよ」
と、言いながら、自分の中で一番男前の笑顔をテイトに向けた。
自分で言うのもなんだがこの容姿だし、人目を引くのは致し方ない。だが、それはテイトも同じこと。寮の中ではテイトの右に出る程の可愛い男子は当然のことながら居ないのだが、こうして街にでてきても可憐な美少女でさえテイトと並んだら霞んでしまうだろう。
「オレはテイトの方が心配だ。知らない人にホイホイ付いていったりしたらダメだぞ」
「なんだよソレ。子供じゃあるまいし」
そう言うと少し唇を尖らせる。マジで可愛い。
「帰るか?」
「え、もう?」
嘘だろ?という表情のテイトを引きずってバス停へと急ぐ。今なら次のバスに間に合うはずだ。さっさと寮に帰って思う存分テイトを抱きしめたい。
バスの最後座席に座るとそっとテイトの手を握る。本当はデート中ずっと手を握りたかった。
「フラウ?」
テイトが誰かに見られるのではないかと不安そうな顔を向けるが、車内は数名の乗客と運転手のみ、当然ここで男子高校生二人が手を握っているなんて思いもしないだろう。
「大丈夫、誰も見てないよ」
テイトの顔に顔を近づけると耳元でそっと囁いた。途端に真っ赤な顔をしてテイトが下を向いてしまった。頼むからあまり可愛い反応をしないでくれ。
「ムラムラする」
「な、何言ってんの」
オレを意識しないようにする為かテイトの視線は車窓の外へと向けられたが、手を強く握るとギュッと握り返してきた。寮に着くまでのあと20分、オレの理性は保てるのだろうか。
寮の部屋に入るなり背後からテイトを抱きしめる。
「ちょっと、フラウ!」
「部屋まで我慢したんだから、オレを褒めろ!」
テイトの耳元で囁くと案の定テイトの耳が真っ赤になった。多分顔全体が赤いに違いない。愛しさが更に増して一層強く抱きしめる。
「オレも……オレも我慢した」
「え?」
テイトが消え入りそうな小さい声で言うからてっきりオレの願望から聞こえる幻聴かと思って聞き返した。
「だから、オレも、んん……」
半ばやけっぱちになって言い放つテイトの口を唇で塞ぐ。驚いて唇を堅く結ぶが構わず舌を割りいれる。唇を抉じ開け歯列をなぞると呆気なく開いた。深まるキスにテイトの息が上がる。
「フラウ……」
立っているのが厳しくなった様子のテイトを支えながらベッドへと倒れこんだ。
「いいのか?」
昨日もその前も、考えてみれば連日と言っていいほど体を重ねている。
「聞くなよっ」
真っ赤な顔に唇を這わす。唇を重ねた合わせたところでそろそろと服の下に手を滑り込ませた。
「女子高生見たからムラムラしたのか?」
お互い満たされてとことん甘い時間を共有しているとばかり思っていたのだが、テイトの口から出た言葉は意外なセリフだった。
「なんで、そこで女子高生なんだよ? あんな珍獣のどこにムラムラくるってんだよ」
「珍獣って……違うのか?」
「オマエにムラムラする以外ないだろ?」
「変な奴、オレにはお花付いてないぞ?」
「そんなオプションいらねーよ!」
頭にお花が付いてるか付いてないか基準で相手を選ぶ訳ないだろうが。つくづくテイトの基準が理解できない。まてよ、
「付けろっていったら付けるのか?」
「似合うと思うか?」
花は似合うと思うが頭に付けるのはちょっと……あ、それより
「女子高生の制服は似合うと思うぞ」
「はぁ〜。絶対着ないから!」
やはり却下か……制服が無理でもスカートとか……どうにかテイトに着せられないかと思考を巡らせているとバシッと頭を叩かれた。
「また変なこと考えてるだろ。オレ、絶対スカートなんか履かないからな」
テイトが珍しく言い当てる。
「べつにスカート履かせようとか考えてねーよ。テイトは今のままで十分可愛いからな」
「可愛いって、それ褒めてないからな。くっそ」
口を尖らす仕草がやっぱり可愛くて抱きしめた。そもそもずっとベッドの上で抱き合ったままだ。
「そろそろ飯、行くか?」
「うん」
オレから体を離し散乱した服を掻き集めるテイトの腕を引っ張るともう一度懐へ引き戻した。
「おい! 起きるんじゃねーのかよ」
呆れたテイトが「はぁ」と溜息を吐いた。起きるけどその前に……。ニヤリと笑うとテイトがオレに覆いかぶさって唇が重なる。
「これでいいか?」
男らしい潔いキスをした割に首まで真っ赤で、やっぱりどこまでも可愛いテイトを抱きしめて再びベッドの中へ。
「……」
「そうだ、テイト」
「なんだよ?」
「次のデートはどこか広い公園にしよう」
花畑とテイト、きっと良く似合う。
次のデートの誘いにテイトは照れたような困ったような笑顔を見せた。
そのはにかんだ笑顔を一面咲き乱れた花畑で見てみたい
end
※最後は激甘〜。なんじゃコルァ〜(≧д≦)ノ