※テイト視点。※同級生篇※性描写あります。


囚われの子羊


 バレンタインデー翌日から広まったフラウとオレが付き合ってるという噂(実際は付き合ってるのだが)は2日やそこいらで消えるわけもなく、2週間経った今もまことしやかに囁かれている。大概そ知らぬ顔を貫いているが冗談まじりにからかわれば我慢できずにムキになって否定してしまう。ムキになればなったでさらにからかわれるだけなのだが……。今日もそんなことの繰り返し。ぐったりと疲れ果てて寮の部屋へ戻ると噂の元凶はのうのうとベッドに横になって漫画を読みふけっていた。
「オイコラ」
「んぁ?」
 間の抜けた返事をするも視線は少年誌から離さない。
「ちょっとはフラウも否定しろよ」
 ベッドの横に仁王立ちになりフラウを見下ろす。
「否定もなにもなぁ〜ホントのことだし」
 少年誌から顔を上げるとニヤリと笑った。フラウがそんなだから噂が一向に消えないんじゃないか?
 ああ、もういい!
 本当だからとかそういう問題じゃ無いんだよ。付き合ってる事をわざわざ公言する必要は無いだろうって言ってんだよ。と、言ったところで右から左へと聞き流すだけであろうフラウに溜息を吐くと自分の机へと向かった。
「なぁ、テイト」
 フラウに呼ばれて振り返るとおいでおいでと手招きしている。用があるならオマエが来いよ。
「なんだよ」
「コッチ来いって」
 自分から来る気が無いのかまったく動こうとしないフラウに仕方なく近付く。
「用があるならオマエがっ」
 言い終わらないうちに腕を捕まれベッドに組み敷かれた。
「ったく、フラウっ」
 フラウの眼が危険な感じの色になっている。青そのものは変わらないが熱っぽい感じがする。こうなるとオレもだめで
「すんのかよ?」
 返事の代わりにフラウの唇が重なる。触れるだけと思いきや、いきなりのディープキスで息が上がった。



「ああっ」
 埋め込まれた指の動きに甘えたような声が上がる。声を抑えるとかそういう次元ではない。もはや薄く開いた唇は開きっぱなし。時折、フラウが漏れる声を飲み込むように吸い付いてくる。既に日常と化したフラウとのセックスのような行為(既に『ように』ではなくセックスそのもの)は、日毎、過激さを増していく。いったいどこでそんな知識(テクニック)を仕入れてくるのか? 焦らすような指の動きに腰が揺れる。
「此処、いい?」
 フラウの長い指先がポイントを的確に抑え、ビクンと体が波打つ。と同時に耳元で囁かれ、躊躇いも無くコクンと頷いた。この時ばかりはオレだけどオレじゃない、じゃあ誰なんだ? 不本意ながら焦れた体は一秒でも早くフラウを欲しがっている。早く……
「フラウ……」
「何?」
 そう言って意地悪気に目を細めて片方の口角を上げた。わかっているくせに。すっかりフラウのペースに乗せられている。反抗心から意地でも自分から欲しいとは言わない。そう心に決めたにもかかわらず、体の方は正直で飲み込んだ指をギュッと締め付けている。
「やらしいな、テイト」
「うる・さい」
 寮は夕食前の時間帯とあってそれなりに騒音が響いている。こんな一室で立つ物音など、誰に届く筈も無い。解っていても自然と交わす会話は囁き声になる。
「オレ達、こんなことしてるのに……」
 そりゃ、してるけど……
 フラウは指を届くギリギリのところでクイッと捻った。
「んっ……」
 新たな刺激に声が漏れる。
「否定して回るの意味なくね?」
 フラウは下腹部に顔を近付け先端で光る雫を嘗め取った。
「ひゃっ」
 突然の訪れた刺激に声が裏返り、慌てて口元を手で抑えた。
「オレなりにちょっとは傷ついたみたいな?」
 嘘つけ、そんな取って付けた言い訳誰が信じるか! オレの半信半疑の視線に少し傷ついた顔をする。
「オレもテイトに愛されてるって思いたいわけ」
「ばっか」
 「ホントだよ」と言うように埋め込ませた指が内壁を押し広げるように動いた。
「あ、もう」
「欲しい?」
 埋め込んだ指を抜いて代わりにフラウ自身を宛がった。先端が抵抗も無くズブリと飲み込まれるが先へ進まず後退して出て行く。
「フラウ……」
「欲しい?」
 この期に及んで焦らしてみせる。そう言うフラウだって限界のくせに。オレはそれ以上に限界だけど……。コクコクと頷くとフラウの首に手を伸ばした。



「テイト、起きろ! 飯行くぞ」
「ん……」
 飯か……。はっきり言ってどうでもいい。今はただ眠たくて……
「ここで飯食っとかないと、また深夜にアンパン食うことになるぞ?」
「それでもいい……。フラウ、買ってきて」
「ダメだ。起きろ」
 強引にベッドから引き剥がされTシャツを被せられた。
「ほら、行くぞ」
「ん、後から行く」
 一緒に部屋を出るなんてとてもじゃないが恥ずかしい。今オレ達のことをからかわれてもやることをやってるだけに流石のオレも全力で否定するのは気が咎める。
「オマエな、あんま気にすんなよ。それにオレだけ行ってオマエが来なかったらそれこそやっぱり〜って思われるんだぞ」
「確かにそれはそうかも知れないが……って、何が『やっぱり〜』なんだよ! なんでそう思われるんだよ。十中八九付き合ってるが前提でのその発想だろ? オレがこれだけ否定してるんだから『テイトは風邪か?』ってぐらいが普通の反応じゃないのか?」
「オマエね、本当にオレ達の事がバレてないとでも思ってるのか? おめでたいにも程があるぞ」
 フラウが呆れるを通り越して哀れむような目線を投げた。
「んなっ」
 なんだよそれ! オレがあれだけ否定して回ってるのに全て無駄だとでも言いたいのか?
「諦めろテイト」
 そう言ってフラウがオレの頭をポンポンと宥めるように軽く叩いた。
 いやいや、オレは諦めないぞ。断固、否定だ! この寮の風習というか悪習に染まるなんてことはあってはならない! いや、十分染まってしまったがそれを肯定するわけにはいかない! 矛盾しているようだが……
 不意にフラウの顔が近付いて唇が重なった。
「な、なんだよ?」
「なんとなく、したくなったんだよ」
「気分を一々実行するなよ。人前でしたくなったらするのか? 危ない奴」
 オレはフラウを睨みつけたが気にする様子もない。それどころか既に別の事を思案している。
「テイト、明日は映画でも観に行くか?」
「なんだよ突然」
「オマエ、何か見たいって言ってただろ? 地底生物が人を襲うとかいかにもチープな設定の」
「チープって言うな! ってか映画って、そんなデ、デ、デートみたいなことできるか!」
「みたいなじゃなくてデートだ。オマエどうせ暇だろ? 決まりな」
「勝手に決めるな」
「オレと映画に行くのは嫌か?」
「い、嫌じゃない、けど」
「じゃ、いいじゃねぇか」
 忘れてた。フラウはそもそも人の話をまともの聞く奴じゃなかった。先日のバレンタインデーに言語の通じない宇宙人だと確信したばかりじゃないか!
「やっぱりセックスだけじゃ、付き合ってるとは言えないものな」
 そう言ってフラウは嬉しそうに微笑んだ。セックス等とさらりと言ってしまう口を糸と針で縫いつけてやりたい衝動に駆られるがふと沸いた疑問を投げかけてみる。フラウは邪魔をしているというよりも公表したがってる感がある。
「なんで、フラウはそんなに付き合ってる的なアピールをしたがるんだよ」
 オレは必死に隠そうとしてるのに……
「なんでって……そりゃ、オマエ」
「うん、うん」
 オレが納得する程の理由があるならさっさと言え!
「最近色気が増したからな」
「は?」
「ま、オレのせいだろうから文句も言えねぇが」
 言ってる意味が解りませんが?
「いいかげん裏でシメルのにも限界があんだよ。そのうち堂々とちょっかい出す不届きな奴もでてくるだろうしな。今のウチにちゃんとオレのだって示しとかねーと」
「何言って……」
「オマエに悪い輩が近付かないようにどれだけ細心の注意を払っているか……そりゃ、もう、健気に排除しまくって……なのにオマエときたら非協力的だし」
「なっ! オマエ、陰で何やってんだよっ」
「表で遣れないようなことだよ」
 フラウはボソッと呟くように言うと軽く血の気の引くような笑みを浮かべた。冷酷非道とでも言ってしまいそうな……
「フラウ……」
「心配するな」
「心配するさ! まさか人を殺めたりなんてことしてないだろうな……」
「そうならねぇように、ちったぁ協力しろよ」
「協力って……」
 なんか立場が逆になってないか? オレはオレ達の関係を肯定するわけには……でも、そうなると裏で確実にフラウにとんでもない目に合わされる被害者が出るってことなんだよな……
「飯、行くぞ! 飯!」
 フラウはやっぱり宇宙人なのかもしれない
「テイト? 聞こえてるか?」
 裏でシメルとかってまさか鶏を絞めるみたいな意味合いじゃないだろうな?
「テー、イー、トー!?」
 排除って? 表で遣れないことって? 
「テイト、オマエ、とんでもないこと妄想してるだろ?」
 フラウが大きく溜息を吐いた。
 おいおい、溜息を吐きたいのはオレの方だぞ! オレは多分、実験体第一号なんだ。
 ぎゅぅぅぅ
 突然フラウに力いっぱい抱きしめられた。
「テイト、驚かして悪かったって」
 フラウの唇が額に押し付けられる。
「フラウ……、さっきの眼は人間超えてたぞ」
 本当に怖いと思ったんだ。コイツ人間じゃねぇって……
「だーかーらゴメンって。そのぐらい真剣にテイトのことが好きなんだって」
 フラウの腕の中というのもあってか『好き』という言葉に気持ちがスッと落ち着いた。
 ぎゅるるる。
 安心したからか突然、腹が鳴った。
「飯、行くか?」
 フラウがまだ心配そうな顔で覗き込む。頷くとフラウの腕が解かれた。




 寮の廊下をフラウと並んで歩く。行き交う寮生が一瞬固まるがサッと道を開けていく。不思議なことにからかう輩は誰一人いない。
「なぁ、フラウ」
「ん?」
「否定するのは止めるから、裏でシメルとかするなよな。人間は食べても美味くないぞ」
「また、オマエねぇ。オレをなんだと思ってたんだよ」
「宇宙人」
 オレの真剣な一言にフラウは大きく溜息を吐いた。
「やっぱ、明日の映画はアクションモノにするからな」
「え? ナゾの地底生命体Qじゃないのかよ!」
「そういうの観過ぎなんだよ、テイトは」
「……」


 やっぱり何時の間にかフラウのペースだ。
 フラウに協力させようと思ったのに逆に協力させられるし(半ば脅しに屈したみたいだが)、映画もフラウの好みのモノに摩り替わってしまった。
 釈然としない、釈然と……だけど、このペースに乗っかるのも悪くナイなと
 思わなくもナイ





end



※収拾がつかないまま終。(≧д≦)ノ