※お待たせしました。テイト視点です。


テイト8歳


 僕には人に見えないモノが見える……らしい。
 8歳の誕生日を迎えた頃、ふと気がついた。
 ずっと見えていたから、自分以外の人間に見えないと知って驚いた。
 僕にだけ見えるそれは、今、ソファに座ってタバコをふかしている。そして僕はそれの膝の上に座って本を読んでいた。
 目は文字を追っているけど内容が全く頭に入ってこない。というのもあることが気になるからだ。
「フラウ?」
「なんだ?」
「フラウって何なの?」
「死神だって、言わなかったか?」
「それは知ってるよ。その死神がなんでいつも僕の傍に居るの? 死神ならさっさと僕の魂持ってけばいいだろ?」
「前に言ったろ? オマエの魂獲るのはまだ先の先だって」
 何回も聞いて毎回同じ答えが返ってくる。僕が知りたいのはそういうことじゃなくって僕との関係だ。だけど、毎回はぐらかされる。きっと今日もまた……
「フラウは僕の何?」
 僕は懲りずに同じ質問を繰り返す。フラウの答えもいつも同じで『そのうち解る』そう言ってフラウらしくない顔をして笑うんだ。
「そのうち解る」
 ほらね。毎回そう。だから今日は次の質問も用意した。
「そのうちっていつ? 何年後?」
「ん〜。オマエと出合った時の年齢に達したらだな。オマエ、あんとき何歳だったんだ?」
「あんときって……こっちが訊いてるのに……」
 僕は人生を再生中で、事あるごとに前世の記憶が甦る。記憶の大半は辛く悲しいもので、しかも昨日のことのように鮮明で現実と記憶の区別がつかない。
「フラウと出会うって、その頃は死神じゃなかったの?」
「ん〜。その頃も死神っちゃぁ死神なんだが……」
「? ……ま、いいや。フラウと僕が出合った頃の話聞かせてよ」
 前世の記憶に、未だフラウは登場していない。フラウの様子だとやっぱり当分先のようだ。でも、知りたい! 前世でのフラウと僕のことを。
「少しでいいから、教えて!」
「そんな、目ぇ輝かすなよ。しょうがねぇな。……オマエは空から降ってきたのさ」
「なんで?」
「そんなのオレが知るか?」
「……で?」
「オレもホークザイルでツーリングしてて、落ちてきたオマエをオレがこう、シュッとキャッチしてだな、オマエは助かったという。イテっ!」
「違うでしょ!」
「痛ぇだろうが、このメガネが!」
 身振りを添えて説明するフラウの背後から手刀が振り下ろされた。
「カストルさん」
「キャッチするどころか一緒に墜落したよね」
 カストルさんの後ろでにっこり笑うもう一人の司教の姿。
「ラブラドールさん」
「記憶が戻ればバレル嘘を貴方は何故つくのです?」
「いいじゃぁねぇか。記憶が戻るまではカッコイイ命の恩人で。どっちみちオレはコイツの命の恩人なんだからよ」
「命の恩人?」
「テイト君」
 ラブラドールさんがいつもの優しい笑みを浮かべて僕を見つめた。
「前世では僕らはまだ出会ってないけど、今はこうして4人で此処に居る。それは僕等には充分幸せなことなんだよ」
 僕はコクンと頷いた。今が幸せだということは解る。前世の記憶があまりにも惨いから……
「カストルさんとラブラドールさん、ファーザーもどうしてフラウが見えるの?」
「……僕等も、以前は死神だったんだよ」
「?」
 フラウと自分の事が知りたかったのに、謎が増えてしまった。カストルさんとラブラドールさん、ファーザーも死神?
「そのうち解る日が来るよ。焦らないで」
 そういってラブラドールさんも、時折見せるフラウと同じ表情をした。
 淋しそうな悲しそうな笑顔。
「さてと、お茶にしようか? 摘みたてのハーブティーとクッキーだよ」
「おお!いいね」
「フラウは仕事があるでしょ? さっきから周りが五月蝿くせっついてますよ」
 そう言ってカストルさんが眼鏡を光らせた。確かにコールがフラウの周りを飛び回っている。
「わかってるよ。行ってくる」
「フラウ」
 僕は慌ててフラウの首にしがみ付いた。フラウが仕事に行くときに必ずする儀式。
「あ、今日はいいから」
「なんで!?」
「照れなくてもいいじゃないですか。どうぞテイト君、してあげて」
 そう言うカストルさんの顔が笑ってる。ラブラドールさんも。
「照れてるのフラウ?」
「照れてねぇよ。ほれ」
 いつもなら自分からしてくるのに変なフラウ。しかも儀式が済むとさっさと消えてしまった。それと同時にカストルさんとラブラドールさんは大爆笑だ。
「まったく、フラウったら、行ってらっしゃいのキスを!!!」
 笑いながら膝をバシバシ叩くカストルさん。
「小さい頃は微笑ましかったけれど、8歳のテイトくんだと……」
 目尻の涙を拭いながら笑うラブラドールさん。
「ちょっと犯罪!!!」
 同時に言って大笑いする二人。
 僕、何かおかしな事したのかな?
 フラウが戻ったら訊いてみよう。
 それより。
 こんなに笑われたら、ますます、僕とフラウの関係が気になるじゃないか!!!
 8歳になりたての自分が無性にもどかしい。
 いっそ倍の年齢にならないかな?


end
長らく空けてしまいました。すみません。大人の階段を一気に上らせたかったのですが、なんとかキープ。たぶん半分ぐらいでしょうか(笑)まだまだ続きます。続けます。 2014.05.07

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