※秘め事シリーズ、テイト視点です。※大人シーン有!


喧嘩


「フラウ司教と喧嘩したのか?」
「……。ま、そんなとこ」
 ちょっとした事(オレにとっては大事)でフラウと喧嘩したけど、周りに気を使われるのも嫌だったからいつも通り接していた。なのに、ハクレンには見抜かれた。
「なんで解った?」
「んー。なんとなく?」
 顎の辺りに人差し指を添え、考える素振りを見せてからハクレンは答えた。
「え、……もしかしてバレバレ?」
「まあな」
 ハクレンの苦笑いが全てを語っている。フラウとの関係が教会中に知れ渡っているわけじゃないだろうけど(たぶん)、なんかもう旅に出たい。とりあえずここは平静を装って、
「べ、別にたいした事じゃないし、いつものことだから……」
「ああ、どうせいつもの痴話喧嘩だろ?」
 ち、痴話喧嘩!?
「あ、あのさ、ハクレン」
「なんだ?」
「オレとフラウって周りから見たら、その……」
「夫婦かな」
「えええ!!!!!ふ、夫婦って……」
「気がついてないのはテイトぐらいだ。周りの人間はテイトとフラウ司教のことを夫婦と捉えているぞ。オマエの事を思って気付かない振りをしているだけだ。と言っても気にするなテイト。さして二人のことを気に留めていられる程、我々(教会)は暇じゃない」
 ハクレンの言葉にオレのガラスのハートはひびどころか木っ端微塵だ。フラウとは派手に喧嘩してるし、人前でのスキンシップは一切してない。なのに、そんな目で見られていたなんて……
 旅に出よう。明日にでも。


「というわけでだ、オレは明日、朝一で此処を出ていく!」
 深夜、フラウの部屋に忍び込み、そう宣言した。
 本当はもっと早く教会を出るべきだったのだ。司教見習いとはいえ、清く正しくあるべきなのに、オレは……フラウと、み、淫らな関係を……
「オレを置いて行くのか? ほれ、まぁ、落ち着いてコレを飲め」
 フラウはそう言いながら、オレにココアを淹れてくれた。寂しそうな素りは一切見受けられない。
「信じてないな?」
「いや、信じるも何も、テイトが此処を出て行くって話だろ? オレを置いて」
「……」
 フラウを置いていくつもりは無かった。むしろ、オレの決心の固さを知ったら一緒に来てくれるぐらい思っていた。
「これでもオレには司教としての大事なお仕事が色々とあるしなぁ……」
「フラウ……」
 一緒に行かないか、と、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 そもそも、オレが教会を出る決心をしたのも原因はフラウだし、オレの方から頼むような事はしたくない。でも、フラウと離れての生活は考えられない。
「フラウ、オレ……」
 やっぱりフラウは一緒に行ってはくれないのか。
「オマエは出て行くんだろ?」
 コクンと頷く。この展開は考えて無かった。フラウと離れるなんて。
「そういや、オレら喧嘩してたんだっけな。朝寝坊をオレの所為にして“もう、フラウとは口利かない!”って、言ってなかったか?」
「朝寝坊はフラウの所為だろ! フラウが……」
 フラウの腕が伸びてきてオレは一瞬でフラウの腕の中、唇はフラウの唇に塞がれた。
「テイト、最後に抱かせろ」
 最後ってなんだよ! なんで一緒に行ってやるって言ってくれないんだよ! オレと離れても平気なのかよ?


 最後だから抱かせろだぁ! 冗談じゃない! フラウの好きになんかさせてやるもんか! そう心に決めたのに、拒もうとする意識とは裏腹に穿たれたフラウの指を易々と飲み込んでゆく。
「……はぁ…っ」
 フラウの長い指が後ろの窄まりを行き交う度に吐息が零れる。しかも感じ易い箇所を狙って擦られ、オレの固かったはずの決心は脆くも崩れ去った。
「やだっ…フラウ…抜いて」
 指なんかじゃ物足りない。どうせならフラウ自身を感じたい。
「フラウ……」
「オレを置いて何処に行くつもりだテイト?」
 フラウはそう囁くとビクビクと震えるオレ自身を口に含んだ。後ろに埋め込まれた指は刺激を与え続けている。
「別に…決めて…ない…。どこに…行こうと…オレの、勝手っ、…やっ」
 前を強く吸うのと同時に指を突き上げられ、悲鳴に近い声を上げた。
「本当にお前は自己中心的だな。こんな体、オレが居なくてどうすんだ? 満たしてくれる誰かを探すつもりか? オレの代わりがそう易々と見つかるとでも思ってんのかよ?」
「…思って…な、……んんっ」
 代わりなんか探すつもりも無いし、そもそも、フラウと離れるなんてこれっぽちも考えて無かった。そう怒鳴りたいのに、口から零れるのは自分でも耳を塞ぎたくなるような喘ぎ声ばかりで、それでもフラウに解って欲しくて腕を伸ばした。
「もう、限界だろ? 逝けよ」
 尖端を吸われ、執拗に舌で嬲るを繰り返されて射精感が高まる。
「やっ、フラウが…いい」
 最後だっていうならフラウが欲しい。いやいやをするように首を横に振った。
「いいから逝けよ」
 フラウの低い声に下腹部が疼く。オレは我慢できず、やんわりと包んだフラウの手の中であっけなく達した。薄く開けた目がフラウの視線を捉えると、冷えた目でオレを見下ろしていた。


 フラウは抱かせろと言ったくせに最後までしなかった。オレだけが一方的に逝かされて、達した後は、情けなくもオレが号泣してしまい、酷く甘い時間になった。最後までしなかったのは、連日の行為は体に響くだろうと、オレを気遣ってのことらしい。目つきがキツクなったのも己の性欲を抑える為だとか、それなら、そうと早く言え!
 泣きながら、此処を出るのは止めるとか、フラウと離れたくないと、溜め込んだ胸の内を吐露すると、フラウにきつく抱きしめられ、窒息死するんじゃないかと思うほど長いキスをされた。おかげで涙は引っ込み、安堵と程よい人肌が心地良くて、フラウの懐でウトウトしはじめた。
 教会を出て行かないのだからフラウとの行為は自粛しなきゃな……そんなことをボンヤリ考えているとフラウが「テイト」と話しかけてきた。
「……なに? オレ、もう、眠い…」
「あのな、言うのが遅れたが辞令が出たんだ」
 もうすぐ眠りに落ちるというところでフラウが耳元で囁いた。
「辞令?」
 なにそれ? 夢と現実の狭間を彷徨いながら言葉を返した。ちゃんと声に出ていたか定かではないが。
「しばらく地方周りしてこいとのお達しが出た。明日、教会を発つ」
 そう。明日、教会を発つ…
「えっ?!!!」
 一気に夢から引き戻された。
「それ、どういうことだよ!?」
 散々人のことを責めたくせに、フラウの方が出て行くってのか?!
「まぁ、まぁ、落ち着け」
「煩い! オレを置いていくのかよ! オレが此処を出るって言った時、行かないって言ったくせに!」
「教会の仕事があるって言ったんだよ!」
「結局、オレを独りにするのかよ!」
「オレがオマエを独りにするわけねぇだろ! オマエはオレの司教見習いだろうが!」
「あっ」
「そういうことだ」
「なんで?」
「オレらが此処に居ると風紀が乱れるからだろ?」
 2人とも教会から手っ取り早く追い出そうということか?
「……フラウ、最後って」
「教会最後の夜って意味だよ」
「ま、紛らわしい! なんで今まで黙ってた!」
 そんな辞令、絶対、遅くても一週間前には出ていたはずだ!
 フラウはニヤニヤと薄笑いを浮かべるだけで、答えようとしない。オレの反応を楽しむ為に決まってる! そういう意地悪なところがいけ好かない!
「もう、フラウとは口利かねぇ!」
 そう、いい捨ててオレはフラウの部屋を飛び出した。
 腹は立っているが、明日から始まる旅への期待が大きく膨らむ。
 早く部屋に戻って旅の支度をしなければ!


 自室に戻ってフラウと旅に出ることをハクレンに告げると「また、淋しくなるな」と苦笑いを浮かべた。
 次の朝、盛大な見送りの中、ハクレンとしばしの別れを惜しんだ。
「よかったら城に立ち寄ってくれ」
 ハクレンもオウカの城に呼び戻されるらしい。次に会う時はオウカにも会える。
「ああ!」
「離れていてもテイトのことを思っているからな」
「オレもハクレンが健やかな日々を送れるよう祈ってる!」
「…で、フラウ司教とはまだ喧嘩中か?」
 小声で訊ねるハクレンに頷く。
「夫婦喧嘩も大概にしろよ」
「ちょっと! 夫婦じゃねぇから! ただの師弟関係だ」
「ただの?」
「ただの!」
 目を合わせて互いに吹き出した。
「ほら、クソガキ! そろそろ行くぞ!」
 ホークザイルに荷物を積み終わったフラウが急かす。
 オレは皆に片手を挙げてフラウの後ろに飛び乗った。直後、ホークザイルは空中へと舞い上がる。
「行ってきます!」
 地上向かって声を張り上げた。手を振る皆の姿がどんどん小さくなる。
 少し淋しいけど、またすぐに会える!
「テイト、何処へ行きたい?」
「カペラに会いたい!」
 行きたい場所は沢山ある。セイランさんにも会いたいし。でも、まずはカペラだカペラに会いたい!
「了解。飛ばすからしっかり掴まってろ!」
 ホークザイルはさらに高度を上げた。教会の塔がオレの背後で小さくなる。
 フラウとの喧嘩から正直予想外の展開だけど、まぁ、いっか?
 で、フラウとは喧嘩中だったことを思い出す。
 それも、まぁ、いいやで済ましてもいいけど…とりあえず、今夜は絶対フラウに触れさせないと心の中で近いを立てた。


 教会を離れたとしても聖職者にかわりないのだから。


end
いい夫婦の日に合わせてUPしたかったのですが、間に合わず。で、書いてるうちに予想外のエンディングを迎えてしまいましたwww やっぱり教会内での行為はいかんだろう?ということで二人を追い出しましたが、シリーズ自体は終わりではありません。これで心置きなくエロが書けるということで、次回、乞うご期待! 2013.11.30

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