※連載終了後の妄想です。「何気ない一日」の続き。ラブラドール視点。

しかたないから笑顔で送り出すよ

「次はこの花の精油を数滴…っと」
 そう独り言を呟きながら、机に置かれたビーカーにスポイトでそうっと精油を垂らす。
 教会から与えられた研究室で日夜、奇病を治す特効薬を研究する日々。楽しみといえばティータイムでのカストルとの雑談ぐらい。フラウが居た頃はツーリングなんてのも楽しんだけど最近はめっきり出不精になってしまった。
 ビーカーの液体をくるくると混ぜ合わせながら、ゴーストだった頃へ思いを馳せる。賑やかで穏やかな日々……。現在に不満はないが、あの頃に戻りたいというのが本音だ。
「集中しないと火傷するぜ」
 懐かしい声にその口調……まさか!
 案の定、振り返ると司教服姿のフラウがそこに居た。
「どうして、ここに? (ていうか、なんで司教服?)」
「カストルがラブラドールの顔も見て行けってよ。実体化するならこれ(司教服)だろ?」
「カストルに云われたから寄ったわけ?」
「ははは。最初から寄るつもりだったって。カストルとはたまたまテイトの所でばったり会った」
「テイト君ににデレデレのフラウの顔が目に浮かぶよ。死神家業は案外暇なんだね」
「何言ってやがる。死神家業が寝る暇ねぇことぐらい知ってるだろ? ゴーストやってたんだから」
「今はただの人間だよ。お茶でも飲んでく?」
「ああ、久しぶりだなラブの淹れるお茶を飲むのは」
「ふふふ。……こうして二人で会うのもね」
 フラウの為に飛び切り美味しいお茶を淹れる。ひとくち、口に含んで「うまい」とフラウは呟いた。まるで昔に戻ったみたいで懐かしい。そんなフラウを見ただけで泣きそうになる自分に苦笑いした。
「変わんねーな、此処も」
 フラウは窓の外の景色を眺めると、懐かしそうに目を細めた。そんな表情のフラウに心が締め付けられる思いがした。
 だいたい、どうしてフラウだけがゴーストのままなんだ!? オレもカストルも人間に戻りたいなんてこれっぽっちも願って無かったのに。一度死んだ身なんだからフラウと一緒にあの門を潜れば……。あの時、自分は最善を尽くしたのか? もっと、他に打つ手は無かったのか!? と、日が経つにつれ後悔の念が強くなるが、予知能力を持つ自分があの選択以外に無かったことも重々承知していた。でも、もし、叶うなら……
「もう一度、三人でここで暮らしたい。戻ってきてよフラウ! じゃなかったらオレを連れてって」
 とうとう我慢しきれず嗚咽が口を突いて出た。微かに揺れるオレの肩をフラウが優しく抱いてくれた。
「……そうしたいのは山々だが、オレはこの仕事が気に入ってるし、ラブの魂を迎えに来るのはかなり先の予定だ」
「……」
「ありがとな。ラブ」
 オレの頬を伝う涙をフラウの指がそっと拭う。その指は温かかった。
 ゴーストの能力は無くなってしまったけど、人間でいること、生きてこの世界に留まっていられるとはありがたいことだと常々思うところでもある。
「フラウ、寂しくないの?」
「寂しい? 別に」
「そう。なら良かった」
「また、寄らせてもらう。お茶、ごっそさうさん」
 フラウはいつものように片手を軽く挙げ、フワリと窓の外へと消えた。シュッと一瞬で消えることもできるのに……
「行ってらっしゃい!」
 フラウの消えた窓からオレは空に向かって大きく手を振った。庭で作業していたシスターが不思議そうに見上げているが、構わず手を振り続けた。
 フラウが会いに来てくれるなら、オレはもう少しこの世界で頑張るよ。


end
ふぉおおおおお。難産! 今回はラブ視点でのお届けです。フラテイ要素がまったく無くてすみません(汗) 2013.10.21

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