※連載終了後の妄想です。カストル視点。

何気ない一日

 人間に戻って3年という月日が過ぎた。今はもう人間としての生活に慣れはしたが、ときにゴーストの力があれば救えたであろう命が、目の前で消えて逝くと歯痒い気持ちになる。一介の人間には祈ることしかできないのだ。
「カストル司教、ご苦労様です」
「クロイツ司教!」
 久方ぶりに会う元同業者(07-GHOST)の彼は人間としての生活を実に楽しそうに送っている。
 7区の外れ、病院に隣接している教会を任され、司祭として従事している。ミレイア様と幼いテイトも身を寄せ、教会のお手伝いをして生計を立てていた。
 教会の使いで月に2度程立ち寄るが、幼いテイトに会えるのが、今一番の楽しみといっても過言ではないだろう。
「なにやら今日は、騒がしいですね」
 夜のミサにはまだ時間があるというのに教会への人の出入りがやけに多い。
「ええ。先程、ここの重鎮ともいえる大婆様が天に召されて」
「えっ! あの大婆様が…お元気そうだったのに」
 ここへ訪れる度に飴やお菓子を子供たちにやってくれてと袋一杯に持たせてくれる、優しいお婆さんだった。
 子供たちの描いた絵を届けると偉く喜んで、目に涙を溜めていた姿が印象に残っている。
「淋しくなりますね」
「ええ」
「私も帰り掛けにミサに寄らせていただきます」
「ぜひ。では、後ほど」
 クロイツ司教と別れ、なんともいえない淋しい気持ちを埋めようと、テイトの姿を探した。たいていこの時間は中庭の噴水でミカゲと遊んでいる。
 思った通り噴水の傍で太陽のような笑顔の天使を見つけた。背中に捕まったミカゲが羽を広げ、その光景はまさに天使そのも!
 そして、その横には正反対の死神の姿が!
「フラウ!」
『おわっ!』
「また、あなたは油を売って!」
『売ってねぇよ。仕事で立ち寄ったんだって』
「仕事って、ああ」
『そう、でな、その婆さんがお前に礼が云いてぇんだと。ホレ婆さん、眼鏡の司教ってコイツだろ?』
 フラウが指を一振りすると大婆様が姿を現した。
『おお、おお、生前は世話になったのぉ。教会の子供たちのこと、くれぐれもよろしく頼むでなぁ』
 大婆様は生前と同じ様に目に涙を浮かべ微笑んだ。
「後の事は安心してお任せください。道中はこの者がお供します。軽薄そうに見えますが多少の責任感のある男です」
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ! 其方と同じ男前じゃ! 安心して旅立つとするよ。其方も達者でな』
 手を振る姿を最後に見えなくなった。
「ありがとうフラウ。よろしく頼むよ」
『まかせとけって。オレの仕事だ』
 そういってフラウはテイトを膝の上に乗せた。
「フラウ…仕事に戻るんじゃないのか?」
『あ? そんな慌てるもんでもねぇだろ。今のオレは子守で忙しい』
「子守って、ミレイア様は?」
『ミサの準備があるから見ていてくれって』
「ミレイア様にはオマエは見えないはずだろう? なんで居るって解ったんだ?」
『そりゃぁ、テイトがオレを呼ぶから』
「あ……(察し)」
『カストルもここに座って落ち着けよ』
「……」
 噴水の縁、フラウの横に腰を降ろして中庭ではしゃぐ子供たちを眺めた。こんな風にフラウと過ごすのはいつ以来だろう? テイトはフラウの膝から降りると中庭で遊ぶ子供達の環の中へと入っていった。
 フラウと共に司教だったあの頃も、よくこうやって子供たちを見てたっけ。今更戻れない過去を恋しがっても仕方ない。そう思いながら、できることなら、フラウやラブラドールと一緒に過ごしたあの賑やかな日々に戻りたい……と願ってしまう。
『なんだかんだ言っても楽しかったよな』
 そう呟くフラウの言葉にこくんと頷くしかできなかった。
『泣くなよ』
「泣いてませんよ」
 泣いたってどうにもならない、過去には戻れないのだから。
 私はもうゴーストじゃないしフラウは存在しない。今だって、傍から見たら私は横を向いて独り言を言ってる風変わりな司教に映っているだろう。
「テイト君のところだけじゃなく、ラブラドールのところにも顔を出してくださいよ」
 そう言って、腰を上げると中庭を後にした。
 テイトが「カストルさん、バイバイ」というので振り向くと、実体化したフラウに抱っこされて手を振っていた。
 私と話をしてる時も実体化しなさいよと、苦笑いしつつミサの行われる礼拝堂に向かった。


「……ということがありまして……」
 その夜、夕食後のお茶をラブラドールと楽しみながら、フラウと会ったことなどを話して聞かせた。
「カストルってさぁ、本当はフラウに会いにテイト君とこに行ってるよね〜」
「はっ?! 何言ってるんですか! そんなことありません!」
 ラブラドールはくすくすと笑いながら「またまた〜」と呟いた。
「テイト君とこに行くとフラウに会えるもんね〜。ここにはちっとも顔を出さないから」
「あ、そのことはフラウにも言っておきました。ラブラドールにも会いに行くようにと」
「うん。知ってる」
「え?」
「来たよ。今日、ここに」
「フラウが?」
「そ、フラウが。また来るって言ってた。来ないとカストルが淋しがるからって言ってた」
「!!! 誰が淋しがってるんですか! まったく! 私はむしろ清々してますよ!」
 人の居ないところで何を言ってるんだか!
 事細かく話してもらわないと……
 ラブラドールにお茶のおかわりをすると椅子に座りなおした。

end
今回はカストル視点で、テイト3歳ぐらいをお届けしました。ついでにカスラブに持っていきたかったんですけど……カスラブの需要ってありますかね? 読みたい!という方は挙手をお願いします(笑) 2013.09.14

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