※テイト視点。「続きは風邪が治ったら……」の続編。
メインディッシュを召し上がれ
オレが風邪をひいたとき、フラウが甲斐甲斐しく世話をしてくれたから、そのお礼に「何かして欲しい事はある?」と訊いたら、にんまりと笑って「頭洗って」とお願いされた。確かに他人に頭を洗ってもらうのは気持ちがいい。オレもフラウに頭を洗ってもらうのは好きだ。
という訳で、オレは今、フラウの頭を洗髪中だ。
めんどくせぇ〜。などとボヤキながら指を動かすが、その実、他人の頭を洗うなんてことが意外と楽しくて、床屋なんかで良く使われる「痒いところはありませんかー?」ってお決まりの台詞を嬉々としてフラウ相手に言ってみたりする。
で、返ってきた台詞がこれまたお決まりのように「×××が……」とセクハラオヤジ的発言で「うるせー、黙れ!」と一喝してフラウの頭皮を爪を立てて洗ってやった!
「やめて! 頭皮が傷ついちゃう!」
「……フラウ、キモイからやめろ!」
大げさに頭を庇うフラウに失笑しながら熱いシャワーを浴びせかけると、獣染みた悲鳴を挙げた。そんなフラウが可笑しくて、オレは腹を抱えて大笑いした。
こんなくだらないやり取りをしてられるのも今のうち。互いにそれが解ってるから余計バカみたいにふざけたくなる。
ふと、ずっとこうしてられたらいいのに……って、考えが頭を過ぎって、自分の乙女的感情に鳥肌が立った。
フラウには少々窮屈なバスタブだが、工夫をすれば一緒に入れないこともない。工夫って……ま、つまり、オレがフラウの上に座った状態ってこどだが……別にいやらしいことは無い。ただ、普通?に男同士風呂に入っているだけだ。
湯船に浸かってゆっくりと体を温める。丁度いい湯加減が眠気を誘う。フラウの腹の上でうとうとし始めたオレの頭上から「体は洗ってくんないの?」とフラウの声が降ってくる。体も洗うとは言ってないが、オレは何度も洗って貰ってるし、そのお返しはするべきだろう。が、しかし、フラウは体の面積広いからな……面倒くさいし……何より、今のオレは、眠い!!!
「もう、飽きた……ふぁ〜ふ」
欠伸混じりに返事をすると「風呂で寝るなよ」と言ってフラウに頭を叩かれた。
「いってーな、もう」
今の一撃で目が覚めたオレは体の向きを変えるとフラウにお返ししてやろうと手を振り上げた……
「って、何?」
フラウを殴ってやろうと振り上げた腕を難なく捕らえられ、オレは釣られた猫のように万歳させられた。
「離せよ! バカっ!」
間抜けな格好のまま、フラウを睨みつけたが、フラウは怯むどころか挑発的で、オレを見つめる眼差しは、妙に熱っぽい。
やべぇ、フラウのヤツ、欲情してる……
それはもう、表情からして明らかで、獲物を捕捉した野獣の眼差し。差し詰め、今のオレは蛇に睨まれた蛙、もしくは鷹にロックオンされた兎ってところか。
「な、何? すんの?」
思わず声が裏返る。オレの問いかけにフラウは何も答えず、絡みつくような視線を送る。
するならするで、この手、放して……。
いいかげん、フラウの視線に耐えかねて視線を逸らすと、掴まれた腕が自由になった。ホッとするも束の間、今度はフラウに抱きつかれた。
「な、何!!!」
「やっぱりオマエは可愛い」
「何かその言い方、犬猫と同等に聞こえるんだけど」
「似たようなもんだろ?」
そう言ってフラウは鼻で笑った。
ムカッ!
「フラウから見たらどうせオレなんて小動物だよ!」
「ああ、オマエはオレの大好物だ!」
「オレを餌と一緒にすんな!」
段々、フラウの熱っぽい視線が肉に飢えた虎のそれに見えてきた。
まったく、もっとほかに言いようがあるだろう? 世の恋人はこういう時に「好き!」とか言っちゃったりするんじゃないのか?
「好きだ」
そう、それ! って!
「フラウ、なんつった?!」
「ははは」
「ははは、じゃ、なくて、……わっ」
オレはフラウに抱き上げられると、屈辱のお姫様抱っこで寝室に連行された。
「なぁ、フラウ! オレのこと好きって言ったか?!」
フラウの口からちゃんと、もう一度聞きたくて、しつこく訊いたが笑って取り合ってくれない。
ベッドに放り出されたオレの体にフラウが覆いかぶさるように圧し掛かる。
「まだ、体洗ってない……」
「後でちゃんと洗ってやる」
「もう一度、ちゃんと、オレのこと好きって言えよ!」
「オマエが不足しすぎて正直限界だ……」
そう言ってフラウの瞳が妖しく光る。フラウの厚い胸板に押さえ込まれたオレは既に捕獲された兎状態。
「そういうエロイ発言はいいから、オレのこと好きって言えよ!」
本当は「好き」って言われなくてたって、フラウがオレのことを好きなのは十分過ぎるぐらい伝わっている。フラウもそれが解ってるからはぐらかす。
「フラウ、オレのこと好きか?」
「オマエは?」
互いの息がかかる距離。視線を絡ませてニヤリと笑い合う。
「覚悟しろよ」
なんて囁かれれば、オレ自身衝動を抑えきれない。フラウの首に腕を回すと自分から唇に吸い付いた。
しょうがない。飢えた獣に餌を与えるとしよう。
「餌の時間だ」
そう独り言のように呟くとほくそ笑んだ。
「何か言ったか?」
「別に……。ありがたく喰えよ!」
フラウは返事の代わりにオレの喉元に喰らいついた。
まさか、本当に喰いやしないだろうな……
次の日、オレはいつものように朝を迎えた。どうやら喰われなくてすんだらしい。昨日のフラウはマジでオレのことを喰いそうな勢いだったから別の意味で冷や冷やした。とはいえ、美味しく頂かれたことに変わりない。オレは鈍い痛みに顔をしかめると、オレの体を抱き枕にしているフラウの鳩尾に拳を食い込ませた。
「いってーな! もうちょっと優しく起こしてくれよ!」
「うるせー! こっちはだるくて起き上がれねーよ!」
途端にフラウの顔が曇った。
「マジでか?」
コクンと頷くと、フラウがすまなそうな顔をした。
「少し様子みるしかないな……」
そう言ってフラウは再び寝の体制に入った。
「おい! フラウ? 寝るなよ!」
「動けないんじゃ、しょうがないだろう?」
「誰の所為だよ!」
「オレの所為だろ? いいからオマエも寝てろ!」
「……」
再びフラウの抱き枕と化したオレは溜息を吐くと、寝心地のいい場所を探してフラウの体に身を寄せた。
もう少し、もう少しだけこのままで……
オレ達の前途多難な(ハズの)旅は、結局、一向に前に進まない……
end
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