満月


「寒くないか?」
「大丈夫」
 そう言ってテイトはフラウの体に身を寄せた。体温の無いフラウの体に擦り寄ったところで熱が上がるとは思えないが、保温効果ぐらいはあるかもしれない。
 久しぶりの野宿。フラウの長めのコートにカペラと三人身を寄せ合って包まった。カペラとミカゲの体温がコートの中を暖めてくれる。
「カペラ大丈夫かな?」
 テイトとフラウはカペラを覗き込んだ。静かに寝息を立てるその顔は、とても穏やかな顔をしている。
「大丈夫みたいだな。クマ肉もたらふく食ったし、栄養は足りてるだろうから心配いないだろう」
 そう言ってフラウがニヤリと笑った。炙った塊肉を夢中で頬張るカペラを思い出してテイトもクスリと笑った。
「テイトもさっさと寝ろ」
 優しく微笑むと額に唇を押し付けた。
「あ……」
 テイトが空を見上げた。
「満月か」
 聳え立つ岩からひょっこりと顔を出したお月様は、事の外まん丸で辺りを明るく照らしている。
「オレを影にするか?」
「平気」
 テイトはフラウが体の向きを逸らして陰を作ろうとするのを止めた。
「見てるから」
 テイトの言葉にフラウも天上に煌々と光る月を見上げた。
 テイトは月に魅入った。太陽は眩しくて凝視することはできないが月の光は優しくて、いつまでも飽くまで見ることができる。
 月が放つ光の為か普段より一回りも二回りも大きく感じる。
 もしかしたら地上に近付いているのかもしれない。
 そのうち月に押し潰され
「飲み込まれそう」
 月で満たした瞳でテイトがポツリと呟いた。
「大丈夫か?」
 そんなテイトを心配してフラウが顔を覗き込んだ。
「何が?」
「頭がおかしくなってねーかと思ってよ」
「なんだよそれ……」
 テイトはクスクスと笑った。
「笑うな」
 フラウはテイトの頭に掌を置いた。
 いつもと違う冗談とも本気とも取れる表情で「人の心を惑わす力があるんだぜ。満月には」と続けた。
 テイトの頭上から降ってくるフラウの声は優しくて心地いい。
「だから、あんまり見んな」
「うん」
「おやすみ」
 フラウはテイトに顔を近づけると唇を合わせた。



「オレが狼にならないとも限らないしな」
 フラウの苦笑いと共に零した呟きは、おそらくテイトの耳には届いてないだろう。
 一定のリズムを刻むテイトの鼓動がフラウの眠りをも誘っていた



END


※団子食べたい……