スキ!
「眠れないのか?」
 ベッドの中で一人もぞもぞと寝返りを打つとカペラを挟んだ向こう側で寝ているフラウが囁いた。
 ふと、こんな時、どうしようもなくフラウが好きだと自覚する。
 フラウがカペラの頭越しにオレを見つめている。
 目を細めて優しく微笑んだりするな、バカっ
 オレはそれだけでなんだかとてもたまらなくなったりするのに。
 そうだよ眠れねーよ。誰のせいだと思っているんだ、バカっ
 毎日のようにちょっかいを出してくるヤツが珍しく大人しくベッドに入ったりするから逆に気になるんだよっ


 もう、飽きられたのかなって……


 もともと体の繋がりなんてオマケみたいなもんだって思ってたから別にいいんだ。気持ちが繋がっている方がオレにとっては重要だから。フラウがオレにまとわり付く色々なオプション(フェアローレンとかミカエルとか)のせいでオレに執着してるのは解ってるし、それでもいいと思ってるけど、やっぱりそんなの関係なくオレを見て欲しいって……
 ちょっと欲が出た。
 フラウもゴーストとか関係なくてフラウそのものがオレにとっては大事なんだって……解ってんのか?


「なんで泣きそうな顔してんだよ?」
 フラウは身を起こすとそう言ってカペラ越しにオレにキスをした。
 多分、フラウのことだからオレの中でぐちゃぐちゃに回っている感情は全部読まれてると思うけど、恥ずかしいから考えるの止めなきゃと思うけど、オレは思考を止められない。
 変わりにフラウの首に抱きついた。ギシッ。ベッドが軽く音を立てた。
「カペラが起きるぞ」
「ん…」
「テイト眠れないなら、」
「やだっ」
 フラウが『誓いの首輪』の力でオレを強引に眠らそうとするのを慌てて止めた。
 やだよ……、ちゃんと受け止めてくれよ、オレの子供じみた思考も我侭も何もかも。




 少しの間そうしていたがフラウは首に巻きついたオレの腕を解くとベッドから降りた。
「おいで」
 オレの体がフワリと浮いた。フラウの腕から落ちないように再び首に抱きついた。
 フラウはオレを抱き上げたままバスルームに入ると後ろ手に扉を閉めた。
 はーっと大きく溜息を突くとフラウの唇がオレのと重なった。さっきのおやすみのキスとは違うし、目も優しくない。

「まったく、オレがせっかく我慢してるのに、どうしてオマエはっ」
 フラウは苦々しげに呟くとオレをギュッと抱きしめた。

「オレにとってもオマエはオプションなしに大事だよ。それを疑うなっバカが」
 絞り出すように発するフラウの声は辛そうだ。

「ちょっかい出さなかったのは連日じゃ辛いと思ったから遠慮してんだよ、これでもっ」
 バスルームは音が響くから囁き声だけど、フラウ、ちょっと怒ってるのか?

「手を出せばウザがるくせに、出さなきゃ、出さないで不安になんのかっ、どうして、オマエはそう可愛いんだよっ」
 囁き声の更に囁き声で耳元をくすぐられた。

「人の苦労も知らないで、煽りやがって、」
 再び唇が重なった。一瞬、垣間見たフラウの瞳は切なそうだ。
 差し入れてきたフラウの舌に吸い付く。
 ギュッと抱きしめられた腕の感触に安堵すると同時に切なさが込み上げる。
 オレの感情は駄々漏れかもしれないけど、フラウのは表に出ないからわからないんだよ。だからこっちだっていろんなことが頭を廻って落ち込んで……、不安になるのは仕方無いだろ? 正直、
「オレのことどう思ってるの?」
「…………………………………………………………」
 無言?
「…………………………………………………………」
 まだ無言?
「…………………………………………………………」
 しょうがないなぁ。
「オレのこと好き?」
 フラウが何も言わないから直球で問いただすことにした。
 さぁ、イエスかノーで答えてみろよっ!
「………………好きに決まってんだろーがっ。言わせるな。バカッ」
 そう言ってくれたフラウの顔はオレの耳の後ろの方にあるから見えない。ちゃんと目を見て言って欲しかったけど、その言葉だけでも嬉しくて涙が出そうだ。
「オマエはどうなんだ?」
 今度はオレの眼を覗き込む。ずるいなフラウ。オレの目を見て好きって言ってくれなかったくせに。
「さあ、言え、吐け、オレにだけ恥ずかしい事言わせやがって」
 そんな凄んだら言わされたみたいになるだろ? それに
「オレの思考は駄々漏れだから、言わなくてもかるだろ」
 そう言ってフラウの唇に自分のを押し当てた。


 好きだよ。


 フラウのことが好きだからオレの全てはフラウにやる。ありがたく受け取れっ、バカっ。


「そいじゃ、ありがたく頂戴するとするかな」
 フラウの指が服の中に忍び込み胸の突起に微かに触れた。
「ん……」
「あんまり無理すんな、テイト。昨日、ちょっと無理したしな」
「大、丈、夫……」
 それよりキスをもっと……
「了解」
 そう言って首筋を這うフラウの唇が笑った。


 ガチャッ。


 ガチャッ? 扉の開く音がして視線を向けると同時にフラウが一瞬でオレの体から離れた。
「カペラっ」×2
 眠気眼を擦りながらカペラがバスルームに入ってきた。
 カペラ、タイミング悪すぎる。オレ達これからが本番なのに……
 フラウの手が名残惜しそうにオレの首筋を撫でると離れていった。寧ろ辛いのはオレの方……
「お兄ちゃんたち、いつまで起きてるの? 明日も早いんだから、もう寝て……ふぁっ」
 そう言ってカペラは大きな欠伸をすると再び扉の向こうに消えていった。
 寝ぼけているのか? フリなのか? ねらってやってるのか? 
「なぁ」
 フラウが笑い噛み殺すとオレに話しかけた。
「何?」
「続き、どうする?」
 フラウは結局耐え切れず思いっきり吹き出した。オレもつられて笑いが込み上げる。
「どうするも、何も、」
 今のですっかり大人しくなってしまった。
「続きは明日にすっか?」
 フラウがオレの頭に掌を置いた。
 そうあからさまに明日やりますって言われるのも恥ずかしいよっ
 おかげでオレは顔を上げられない。
「テイト」
 フラウに呼ばれて顔を上げると唇を塞がれた。唇を薄く開くと舌が進入してきて口内をかき回して出て行った。
「おやすみ」
 おやすみって……
 おやすみのキスにしては濃厚すぎないか? また気持ちが盛り上がったらどうすんだよっ
 有り余る青少年の生理現象に少しは気を使え。バカっ。
 オレの内心を知ってか知らずかフラウは嬉しそうに笑ってる。オレの顔はたぶん真っ赤でフラウのことが好き過ぎる自分に腹が立つ。
「テイト」
「ん?」
「寝ろ」
 あ、フラウずる・い…
 フラウが『誓いの首輪』で有効な言葉を放ったおかげでオレはあっさりと眠りの淵に辿り着いた。
 実はフラウの腕の中で落ちるこの瞬間もたまらなく好きだったりするのだが、そう言ったらフラウはやっぱり笑うのだろうか



Fin


※面と向かってじゃ「好き」なんて中々言えないよね〜というお話。
 それにしてもカペラは便利だな。