ピクニック
「途中でお食べ」そう言ってお世話になった宿の女将が包みを手渡した。
「また、来るんだよ!カペラ!此処はいつでもアンタ達を歓迎するよ!」
カペラは涙を拭うと「あい!」と、いつもの笑顔を向けた。
女将はそんなカペラをギュッと抱きしめるとオレ達を送り出した。
カペラが風邪を引いた為、長いことお世話になった宿だけに別れはいつも以上に淋しい。
「テイトにいちゃんとフラウにいちゃんがいるから大丈夫」
健気に振舞うカペラの頭を優しく撫でる。ミカゲもカペラの頬を嘗めた。
「あ、ミカゲも」
ニコっとミカゲに笑いかけるとミカゲがカペラの頭に飛び乗った。
オレもカペラとミカゲがいるから淋しくないよ・・・フラウも足しとく。
「なあ、テイト、女将がよこしたのなんだ?」
フラウがホークザイルを操作しながら振り向いた。
「あ、お弁当みたい。サンドウィッチかな?」
「そいじゃ、ピクニックとしゃれこみますか!」
「何?ピクニック?」
耳慣れない言葉に聞き返すがフラウの耳には届かなかったらしい。グンッと高度を上げた。
「わっ!」
「飛ばすぞ!しっかり捕まってろ」
「わかった」
「あい!」
「ぴゃっ!」
カペラとミカゲを抱きかかえるとしっかりとフラウにつかまった。
ピクニック?それって食べれるの?
「すごい…」
その光景に思わず言葉を失った。
視界には一面に広がる花畑、涼しげな陰を落とす大きな木とさらさらと流れる小川。
「教会の温室みたいだ…」
ラブラドールさんが手塩にかけて育てた花たちを思い出し呟いた。
「バーカ、全然違うだろうが!あっちはラブが育てた人口の花々だ!コッチは誰の手も加えてない自然の花だ!」
「うん…」
オレは素直に納得した。というかフラウの言葉が耳に入らないほどその光景に見惚れていた。
「なあ、コレ持ってて、あとコレも」
フラウに弁当と上着を渡す。
「何だ?」
「カペラ!」
カペラも瞳を輝かしている。オレ達はニコッと笑って頷くと花畑へ思いっきりダイブした。
「わっ、オマエラ何やってんだ?」
「えへへ。気持ちい〜」
そのままゴロンと仰向けになって空を眺める。
まるで別世界だ。
これが夢なら覚めなくてもいい!
色鮮やかな色彩が眩しくて目を閉じた。
「テイト、寝るな!飯にするぞ!」
「あ、そうだ、忘れてた!お弁当!」
「あい!」
フラウが木陰に入ると弁当を広げた。
二段重ねの重箱の蓋を開けるとサンドウィッチが隙間無く収まっていた。きっと宿の女将とオレ達を可愛がってくれた綺麗なお姉さん達が早起きをして作ってくれたに違いない。
カペラがパクッと齧り付き、女将を思い出したのかごしごしと涙を拭う。
食べる、泣く、笑うを同時にこなすカペラが愛おしいやらおかしいやらでこっちまで泣けてくる。
「なーに二人して器用なことしてんだよ。一生の別れじゃあるまいし、いつだって連れってやるって」
フラウがそう言うと本当にいつでも会える気がしてくる。そんなことは無いに等しいと解っていても・・・
「ありがとな、フラウ」
「礼はいいから、感謝の気持ちは行動で示せよ」
フラウの抱き寄せようとする腕をバシッと叩き落としカペラに話しかける。
「カペラ!こっちのサンドウィッチは卵が入ってるぞ!」
「あい!」
オレ達は腹が膨れて動けないぐらい胃袋にサンドウィッチを詰め込んだ。
「カペラは寝ちまったな」
フラウが優しい眼差しでカペラを見つめた。
「ああ」
幹に凭れ掛かるオレの横でカペラが静かに寝息をたてている。
「オレも少し寝とくかな」
そう言うとフラウもゴロリと横になった。
「テイト…」
「ん?」
「もし、オマエが旅とかどうでも良くなってこのまま3人で居たいってんならそうしてもいいんだぜ?」
「冗談…」
「オレは本気だ。いつだってマジだぜ」
そう言うフラウはオレとは反対側を向き目は瞑ったままだ。オレの目を見ずに本気だなんて良く言うよ。でも、
「ありがと。フラウ…」
「だから、礼はいいから感謝の気持ちは行動で」
フラウは向きを変えるとオレの腕を掴んで引き寄せた。
そういうことはちゃんと目を見て言うんだな…
今度は素直にオレもフラウに顔を近づける。
「オマエも少し寝とけ!」
互いの唇が離れるとフラウは少し照れたように再びそっぽを向くと呟いた。
なんだよ、自分からしかけておいて…
オレも赤い顔を隠すようにフラウに背を向けて横になった。
旅は続ける。最後まで成し遂げるって決めたから。それに…
フラウがずっと傍にいてくれるんだろ?
合わさった背中で互いを意識しながらいつの間にかオレは眠りに落ちていた…
Fin