幸せな選択
フラウが夜の仕事(狩り)から帰って来た。いつものように部屋に入るなりバスルームへ向かう。いったい一日に何回入るんだ?
浴室から湯上りの体を拭きながら出て来るとカペラの布団をかけなおしてやる。
そして必ず寝ているオレにキスを・・・
ギシッ
隣のベッドが軋む音がした。
「なんで?」
キスしないんだよ?とは、とても口に出して訊けない!
「だって、オマエ寝てないし」
(キス)して欲しいのか?とでも言いいたげな表情が面白がるように歪んだ。
「来いよ」
フラウが布団の端を捲る。
「カペラが・・・」
「起きねーよ」
「・・・」
「ホレ!」
さっさと来い!と、フラウが眼で誘う。
ちょっとだけ。何もしないからな!
オレは渋々フラウの布団に潜り込む。
「ん、」
布団にもぐるなり唇を奪われ、フラウの掌が素肌を滑るように這い回る。
「ちょっと!」
「し〜!騒ぐとカペラが起きるぞ!」
抵抗するオレの耳元で囁く間もフラウの指は目的地を目指す。オレは必死でその手を阻むが逆に別の手に囚われてしまった。む、無念。
オレはちょっとだけフラウの胸に、その腕の中でぬくぬくと温まりたかっただけなのに。
昼間のカペラがあまりにも気持ち良さそうに眠っていたから、オレもぐっすり眠れるかなって・・・
「寝かせねーよ。オレはそれで何度も据え膳食らわされてるんだからな!」
フラウが呟いた。
「う・・・」
さすがに心当たりが多すぎて何も言い返せない。
でも、隣のベッドでカペラが寝てるんだぞ!これ以上は・・・
「だから、少し、我慢してて」
「む、無理!ん・・・」
必死に吐息を堪えようと口を抑える。
「やっぱり無理か?」
うん、うん、オレは涙目で大きく頷いた。
「じゃ、止めるか?」
「う・・・・」
そ、それはそれで困るというか・・・この状態で放置されても・・・
「浴室・・・」
せめて、カペラが目を覚ました時にこの状況を見られなければ、そう思ったオレは咄嗟に浴室と口にしてしまった。
「了解!」
フラウはオレを抱き上げるとそのまま浴室へ移動した。
あとはもうフラウの天下だった。オレは翻弄されまくり、それでも浴室は声が響くから必死に堪えて・・・無我夢中でフラウにしがみ付いた。
「おはよう!テイトにいちゃん!」
「ん。おはよう・・・カペラ」
眩いカペラの笑顔が目に飛び込んできた。
だめだ、カペラの笑顔が眩しすぎて・・・じゃ、ない!今何時だ?
「昼近くだ。そろそろ、出かけるぞ。仕度しろ」
フラウが涼しい顔して身支度をしている。鼻歌まじりに悠々と髪型をセットしやがって!
「もっと、早く起こせばいいのに・・・」
今日こそは次の目的地に辿り着かないと・・・
「昼から出ても間に合うさ。それより、昨夜はオマエに無理させたからな・・・」
「ぶっ・・・」
自分の痴態を思い出しオレは再び布団に潜った。
「コラ!寝るな!起きろ!置いてくぞ」
フラウがベッドからオレを引き剥がした。
「5分で仕度しろ!(1秒でも超えたらディープキスな!)」
さっさと顔を洗って来いとばかりにビシッと浴室を指刺す。()部分はオレの耳元で囁いた。
オレは慌てて浴室へ飛び込んだ。
「カペラ!オレの服、出しといて!」
「あい!」
フラウのヤツ、無理させたとか思うならもっと別のことに気を使えよ!
鏡に映った自分の姿が目に入る。此処と・・・
「こんなとこにまで!あのエロ司教!」
なんて、昨夜の証拠を数えている場合ではなかった!
オレのバカ!
「テイトにいちゃん!はやく!」
カペラが楽しそうにオレを急き立てる。
「あと1分!」
フラウがカウントを始めた。
「テイトにいちゃん!これ!」
カペラが服を投げて寄こした。
「サンキュ!」
キャッチしてカペラに礼を言う。
「10、9、」
「きゃ〜」
カペラの嬉しそうな悲鳴が部屋に響き渡る。
「7、6、」
「あ〜あとちょっと!」
3人で過ごす賑やかな時間。
オレは服の袖に腕を通しながらぼんやりと思い巡らせた。
フラウにキスされても別にかまわない、それよりも3人で過ごす時間がこのままずっと続けばいいのに・・・いっそ旅なんてしなくても・・・
「3、2、」
フラウのカウントがオレを現実に引き戻した。
そんな幸すぎる選択ダメだよな?やっぱり
Fin