タイム
 居間のソファーに寝転がり何を見るわけでもなく、ただ、ボーっと天上を見上げる。今頃フラウは夜のお勤めだろうか?別にフラウを待ってる訳ではない、断じて、絶対!眠れないから本でも読もうかと・・・なのに肝心の本すら手にしてないとはどういうことか?
 そうだ、本でも読もうと思って・・・思い出したように教典を開く。本と言ってもコレしか持ち合わせが無いのだから仕方無い。
 持ち運び用の略式の教典は文庫サイズで非常にコンパクトだ。全教典から抜粋されたものしか載っていないが。
 なんとなしにパラパラとページを捲っていると「第三巻」という項目が目に入った。そういうえば17章って載ってたっけ?
「あった」
 第三巻17章『汝の中に我がいる限り、常に我の心は汝と共にある』いい教えだ。ジーンと胸に来るものがあるがそれと一緒にしょっぱい思い出が脳裏を過ぎる。地下牢に投獄されたフラウを脱獄させようとした時、フラウがオレに贈った章だ。
 その時に言ったフラウの言葉が鮮明に甦る。
 『オレを安心させたかったら笑え』
 慌てて教典を閉じた。ああ、変な汗かいた!顔の火照りを取ろうと少しヒンヤリする教典を額にあてた。
 まったく、フラウはあの頃から恥ずかしいことを平気で言うヤツだった。

 チラリと時計に目をやる。時計の針は夜中の12時半を回ったところだ。
「フラウまだかな・・・ち、ちがう」
 溜息と一緒に思わず呟いてしまい、誰か訊いてるわけも無いのに慌てて否定する。何やってんだオレ?




 再び時計へと目を向けた。
 ・・・フラウまだかな・・・
 今度は心の中でそっと呟いた。


イミテーション
 頬に何か触れたと感じた次の瞬間に体がフワリと宙に浮いた。
「フラウ?」
「起こしたか?」
「ん・・・フラウ、暖かい・・・」
 頬が触れてる肌が暖かくて心地いい。なんでフラウなのに暖かいんだろう・・・
 漸く自分がフラウのがっしりとした腕に抱かれていることに気付く。
「オレ、寝てた・・・」
「そのまま、寝てろ。ベッドに運んでやる」
 フラウがオレを抱えなおす。
「やだ・・・」
「テイト?」
「このままがいい」
 何言ってんだ、オレ?
 でも、いいや、多分オレはまだ夢の中でコイツもオレが夢の中で創り出した偽者のフラウに違いない。だって、ゴーストのフラウが暖かいはずない。
 フラウはオレを抱えたままソファーに座るとギューっと抱きしめた。
 いつもなら多少は抵抗するのだが今日はしない。
 オレが創り出したフラウに甘えて何が悪い!
「フラウ・・・」
 フラウにキスを強請ると少し照れたように笑った。
 ほら、やっぱり夢だ。本物はこんな顔しない。もっと獣染みてて厚かましいヤツだからな。
「フラウ、好き」
 いつもは絶対に言わない言葉を口にする。だって、ヤツはすぐに調子付くからな。
 そうだ、ついでに笑顔もサービスしておこう。
「ニーっ」
 オレはありったけの笑顔を偽者のフラウにくれてやる。
 ゴメンなフラウ・・・オレは今、偽者のフラウと浮気中だ!
「ぷっ」
 自分で自分の考えに可笑しくなって噴出した。



 夢の中だけじゃなくて現実でも少しは素直になってやるか・・・



リアル
「面白いなテイト。寝ぼけてるのか?それとも酔っ払っているのか?」
 フラウが呆れ顔でオレを見下ろす。
「・・・・・・」
「ま、どうでもいいが」
 フラウはソファに座り直すと膝の上にオレを座らせた。オレはフラウの胸板に頬を寄せる。
「フラウ、温かい」
「ああ、風呂に入ったからな」
 そっか、風呂に入ったのか・・・
「エッ!風呂?」
「何だよ?」
 慌ててフラウの腕を振りほどくと膝の上から飛び降りた。
「どうしたんだよ?」
「夢かと思った・・・フラウが温かかったから・・・そっか風呂か!」
 オレの馬鹿!そうだった、フラウは仕事の後は必ず熱いシャワーを浴びてたじゃないか!寝ぼけていたとはいえ、気付かないとはオレはなんて間抜けなんだ!しかも・・・あろうことかこのオレがフラウに・・・自分の失態に顔から火どころかマグマが出そうだ!
「どうした?テイト?」
「さっきのは無し!」
「おいおい」
「全部忘れてくれ!」
「忘れるって何をだ?キス強請ったり、オレに『好き』って告白したことか?」
「あ”〜言うな!それ以上一言でも喋ったらコロス!」
「…(オマエな〜)」
「フラウ!」
 フラウに腕を取られて再び腕の中に引き戻された。
「…(喋っちゃダメなんだろ?)」
 フラウのブルーの瞳が覗き込む。心の中を覗かれる気がして思わず目を閉じた。目を瞑ったらキスされる!間違いなく!そしてその後は・・・フラウの行動パターンが頭の中を駆け巡る。そしてオレはきっと抵抗することなく受け入れてしまうのだろう。


 フラウの顔が近付いてきた。
 ええい、キスなりなんなり好きにしろ!
 ギュウ・・・さらに固く目を瞑った・・・




タイム・アフター・タイム
 ついばむようなキスから濃厚なそれへと変わる。どちらからともなく吸い付き離れると淋しさを覚える。
「ん?まだ足りないか?」
「いちいち訊くな!バカ!」
 バカと言われたのにフラウが笑った。それともフラウの指が笑ったのか?
「アッ」
 胸の突起を弾かれ声が漏れると慌てて手で口を塞いだ。
「どうせ聞こえやしないよ」
 フラウが塞いだ手を取ると自分の唇を押し当てた。フラウの指は執拗に体を這い回り漏れ出る声はフラウの口に飲み込まれる。
「ん…」
 自分を知りすぎた指の動きは遊びも含めて無駄が無い。全てが快楽になって翻弄する。何度と無く繰り返された行為はこの先フラウと離れても体がきっと覚えてるに違いない。でも自分の身を慰める日が来たら、きっと空しさよりも淋しさに耐えられないだろう…結局、自分が欲しているのはフラウなのだと改めて思い知る。

「だから、オマエを置いてどこにも行かねーって言ってるだろうが!」
 目尻の涙を嘗め取るとフラウが耳元で囁いた。
「勝手に人の心、読むなよ!」
 涙目のオレはそれでもキッとフラウを睨みつける。
 ギュウ…またもやフラウに抱きしめられる。
「だから、煽るなよ!抑えが利かないだろ!」
「煽ってないって!」
 オレは抗議したのに再びフラウに強く抱きしめられる。


 …フラウ、いいから先に進めて…じゃないと眠くなっちゃうよ。オレ…




※拍手お礼テキストの再録です。オマケに微エロ追加しました。ww